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94)魚の健康作用とがん予防効果は調理法で異なる

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術94

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【魚を多く食べる人はがんの発生が少ない】

「魚の摂取量とがん発生率」に関する疫学研究は1990年代ころから多数報告されています。一般的に、毎日魚を食べている人は、そうでない人に比べ大腸がんや乳がんや前立腺がんなどのがんの発生率が低下するという結果が報告されています。

例えば、魚の摂取量と消化器系のがんに関する疫学研究のメタ解析が報告されています。

Fish consumption and risk of gastrointestinal cancers: A meta-analysis of cohort studies.(魚の摂取量と消化器系がんのリスク:コホート研究のメタ解析)World J Gastroenterol 20(41): 15398-15412, 2014年

この報告では、食事中の魚の摂取量と消化器系のがん(胃がんや大腸がん)の発生率の関係を検討した42件の前向きコホート研究をメタ解析の手法で検討しています。対象になった人数は2,325,040人で、平均13,6年間の追跡期間中に24,115例の消化管のがんを認めています。

魚をほとんどあるいは全く摂取しないグループの消化管がんの発生率を1.0とした場合の相対リスクは、習慣的に魚を食べている人で0.93、中等度に魚を摂取している人で0.94、魚の摂取が多い人で0.91でした。全体として、1日の魚の摂取量が20g増えると消化管のがんが2%減少するという結果でした。
 
魚にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)のようなオメガ3系多価不飽和脂肪酸が豊富です。また、がん予防効果のあるビタミンDやセレニウムも豊富です。特に、オメガ3系不飽和脂肪酸のがん予防効果が重視されています。

細胞膜の脂肪酸から作られるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの化学伝達物質の種類は脂肪酸の種類によって異なります。

プロスタグランジンE2(PGE2)は炎症反応や血管新生を促進し、細胞の増殖や運動を活発にしたり、細胞死が起こりにくくする生理作用があるため、がん細胞の増殖や転移を促進します。PGE2はω6 系不飽和脂肪酸のリノール酸やアラキドン酸から合成され、DHAなどのω3 系不飽和脂肪酸はPGE2が体内で増えるのを抑える働きがあります。したがって、魚(特に魚の油)を多く食べる人はがんの発生が予防できると考えられています。
 
前述の「魚の摂取量と消化器系がんのリスクに関するコホート研究のメタ解析」の論文で示された「魚の摂取量が20gで2%の発がん抑制」というのはあまり大きな予防効果ではないようにも思います。また、魚油摂取と発がんリスクの間に関係を認めないという疫学研究も多く報告されています。

これは、調理法の違いを考慮しない摂取総量だけの比較によるためという指摘があります。調理法を限定すれば、もっと発がん予防効果が高い可能性があります。さらに、欧米の研究では、魚の摂取量が少ない集団で比較しているので、魚油のがん予防効果が認められにくい可能性も指摘されています。




【魚油のがん予防効果は用量依存的】

欧米の研究では、魚摂取の多いグループで週に1回または2回程度の魚の摂取です。このような魚摂取の少ない国での研究では、魚摂取を増やすとさらに予防効果が高くなるのか、あるいは予防効果が得られる摂取量の上限があるのかはっきりしません。そこで、日本人のように魚をよく食べる集団の中での研究が注目されています。

例えば、欧米の疫学研究では、魚やオメガ3系多価不飽和脂肪酸の摂取量と膵臓がんのリスクの間に関連は認められていません。しかし、日本の厚生労働省研究班「多目的コホート研究(JPHC研究)」の結果は、魚やオメガ3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多いほど、膵臓がんのリスクを低下する効果があるという結果を報告しています。以下のような報告があります。

Fish, n-3 PUFA consumption, and pancreatic cancer risk in Japanese: a large, population-based, prospective cohort study。(日本人における魚、n-3 PUFA 消費、および膵臓がんリスク:大規模な人口ベースの前向きコホート研究)Am J Clin Nutr
. 2015 Dec;102(6):1490-7.

この保健所ベースの前向き研究(JPHC 研究)では、食物摂取頻度アンケートに回答した、がんの病歴のない 45 ~ 74 歳の参加者 82,024 人のデータを分析しました。その結果、魚油由来のオメガ3系多価不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸(DHA)の摂取量が多いほど膵臓がんの発生率が低下していました。DHAの摂取量が多い上位4分の1のグループの膵臓がんの発生リスクは、DHAの摂取量が少ない下位4分の1のグループの0.69(95%信頼区間:0.51〜0.94)でした。
 
進行した段階では治療の選択肢が限られているため、膵臓がんの家族歴を持つリスクの高い個人の発生率を下げるには、予防がより重要です。

疫学研究では、魚油またはω3-多価不飽和脂肪酸を大量に摂取すると、膵臓がんのリスクが低下することが示されています。特にドコサヘキサエン酸 (DHA) は酸化ストレスとアポトーシスを誘導し、Wnt/β-カテニン・シグナル伝達を阻害し、膵臓がん細胞における細胞外マトリックスの分解と血管新生促進因子の発現を減少させることにより、用量依存的な抗がん活性を示します。

エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の消費量が多い食事は、膵臓がん患者の長期生存と関連していることが報告されています。進行した膵臓がん患者ほど、血漿リン脂質中のDHAとEPAの割合が低下していることが報告されています。(下記の論文)

Plasma fatty acid composition in patients with pancreatic cancer: correlations to clinical parameters.(膵臓がん患者の血漿脂肪酸組成:臨床パラメータとの相関)Nutr Cancer. 2012;64(7):946-55.

ω6多価不飽和脂肪酸を内因的にω3多価不飽和脂肪酸に変換できるω3-脂肪酸デサチュラーゼ・トランスジェニックマウスを使用した動物発がん実験で、体内でω3多価不飽和脂肪酸の産生を高めたマウスでは膵臓がんの発生率が顕著に減少することが報告されています。(下記の論文)

Endogenous n-3 Polyunsaturated Fatty Acids Delay Progression of Pancreatic Ductal Adenocarcinoma in Fat-1-p48Cre/+-LSL-KrasG12D/+ Mice.(内因性 n-3 多価不飽和脂肪酸は、Fat-1-p48 Cre/+ -LSL-Kras G12D/+マウスの膵管腺癌の進行を遅らせる) Neoplasia. 2012 Dec; 14(12): 1249–1259.

これらの研究は、食事性ω3多価不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸(DHA)がリスクの高い個人の膵臓がんの発症を予防する可能性があることを示唆しています。



【「魚の摂取量が増えても膵臓がんは減らない」は正しいのか?】

魚の摂取量と発がんリスクの関係は、がんの種類によって異なります。膵臓がんに関しては、今まで報告された疫学研究のほぼ全てが「魚の摂取は膵臓がんを予防しない」という結論になっています。2012年に膵臓がんと魚の摂取に関するメタ解析の結果が報告されています。

Fish or long-chain (n-3) PUFA intake is not associated with pancreatic cancer risk in a meta-analysis and systematic review.(メタ解析およびシステマティック・レビューにおいて、魚や長鎖のオメガ3系多価不飽和脂肪酸の摂取は膵臓がんの発生リスクと関連しない)J Nutr. 142(6):1067-73. 2012年

【論文内容の要点】
動物実験や一部の疫学研究などで、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)のようなオメガ3系多価不飽和脂肪酸が膵臓がんのリスクを低下させる作用があることが推測されています。

しかし、魚やオメガ3系多価不飽和脂肪酸の摂取量と膵臓がんの発生率の関係を検討した疫学研究の結果は一定せず、結論はでていません。
そこで、この論文では、膵臓がんの発生リスクと魚やオメガ3系多価不飽和脂肪酸の摂取量の関係を検討した2012年までの論文を調査し、それらの論文のメタ解析とシステマティック・レビュー(系統的なレヴュー)の結果を報告しています。

9件のコホート研究を合わせた対象人数は1,209,265人で、平均9年の追跡で膵臓がんが3082例認めています。また10件のケース・コントロール(症例対照)研究では膵臓がん患者2514人と対照18,779人を比較しています。
魚やオメガ3系多価不飽和脂肪酸の摂取量の最も少ない群と最も多い群を比較していますが、結論は「魚やオメガ3系多価不飽和脂肪酸の摂取量と膵臓がんの発生リスクの間には関連は認めなかった」つまり「魚やオメガ3系多価不飽和脂肪酸を多く摂取しても膵臓がんを予防する効果は得られない」というものでした。

ただし、この論文の最後に「摂取する魚の種類や調理法の違いによる効果の違いをさらに検討する必要がある」と言っています。
 
さて、膵臓がんの予防効果が様々な食品や食品成分で検討されています。そのような食品成分の中で、オメガ3系不飽和脂肪酸は膵臓がんを予防する効果が推測されています。それは、オメガ3系不飽和脂肪酸には抗炎症作用や抗酸化作用など様々な抗がん作用が報告されているからです。

膵臓がんの発生には慢性炎症の関与が強いので、抗炎症作用のある食品は膵臓がんなど多くのがんを予防すると考えられています。

しかし、膵臓がんの発生率や死亡率と魚の摂取量との関連を検討した7件のコホート試験の結果では、いずれのコホート研究でも、魚の摂取量が増えても膵臓がんの発生や死亡を減らす効果は認められていません。しかし、これらの研究では、調理法の違い(フライなど)による影響は検討されておらず、魚の総摂取量しか検討されていません。

もともと、肉や脂肪の摂取量と膵臓がんの関係を主体に検討したコホート研究のデータを使ってついでに解析したような研究なので、魚の調理法などは解析の対象になっていないのです。

調理法の違いを考慮せずに単に摂取量だけの比較だと、魚やオメガ3系不飽和脂肪酸の健康作用やがん予防効果がマスクされる可能性があります。実際、生の魚の摂取が多いと膵臓がんを予防するという報告はあります。魚のがん予防効果は調理法によって異なる可能性がかなり以前から指摘されています。




【魚のがん予防効果は調理法で異なる】

以下のような研究があります。

Types of Fish Consumed and Fish Preparation Methods in Relation to Pancreatic Cancer Incidence: The VITAL Cohort Study. (食事から摂取する魚の種類と調理法と膵臓がんの発生率との関係:VITALコホート研究) American Journal of Epidemiology 177(2):152-160. 2013年

【論文の要旨】
食事から摂取する魚の種類や調理法と膵臓がんの発生リスクとの関連は検討されていない。この関連に関して、VITAL(VITamins And Lifestyle)コホート研究に参加しているワシントン州西地区の50〜76歳の66,616人を対象に前向きコホート研究を行った。食事の内容は摂取した食品の頻度のアンケート調査で行った。平均6.8年間の追跡期間中に151人が膵臓がんと診断された。
オメガ3系多価不飽和脂肪酸とフライにしていない魚の摂取量は膵臓がんの発生率と負の相関を認めた。(摂取量が多いほど膵臓がんの発生が少ない)
摂取量の多い上位3分の1の人は、摂取量の少ない下位3分の1の人に比べて、オメガ3系不飽和脂肪酸の場合で膵臓がんのハザード比は0.62(95%信頼区間:0.40 - 0.98. P=0.08)、フライにしていない魚(nonfried fish)の場合で0.55(95%信頼区間:0.34 – 0.88, P=0.045)であった。
ドコサヘキサンエン酸はエイコサペンタエン酸より膵臓がん予防効果が高かった。フライにした魚や貝類の摂取量と膵臓がんの発生率の間には関連を認めなかった。食事中の魚の摂取の健康作用はその魚の種類や調理法によって異なることが示唆された。オメガ3系多価不飽和脂肪酸(特にドコサヘキサエン酸)とフライにしていない魚の摂取は膵臓がんの発生予防に有効であるが、貝類やフライにした魚は膵臓がんを予防する効果は認めなかった。
 
 
 
つまり、魚の膵臓がん予防効果は、魚の調理法によって影響を受けるということです。

魚の揚げ物(フライ)や焼き魚では、魚に含まれるオメガ3系多価不飽和脂肪酸が減少したり、酸化して飽和脂肪酸になると、オメガ3系不飽和脂肪酸の健康作用は減少します。フライにするとトランス脂肪酸が生成されるという報告もあります。

さらに、揚げたり焼くと、ヘテロサイクリックアミンやベンゾピレンのような変異原物質が産生し、膵臓発がんを促進する可能性もあります。「焦げたものを食べるとがんになる」ということがよく言われます。肉や魚などの焦げた部分に発がん物質(DNAに変異を起こしてがんを発生させる物質)が含まれています。高温によって肉や魚などに含まれるアミノ酸やクレアチニンが反応して生じるヘテロサイクリックアミンや有機化合物の加熱によって生じるベンゾ[a]ピレンが、遺伝子を傷つける発がん物質(変異原物質)であることは良く知られています。

動物にヘテロサイクリックアミンやベンゾ[a]ピレンを投与するといろんながん(大腸がん、膵臓がん、乳がん、肝臓がんなど)を発生できます。実際は、動物実験でがんを発生するヘトロサイクリックアミンの量は極めて多く、通常の食生活において、焦げたものを多少多く摂取しても、現実問題として、それが高める発がんリスクは極めて低いと考えられています。

ただし、肉や魚を高温で加熱すると、焦げに含まれる発がん物質だけでなく、脂肪が酸化されて過酸化脂質が多く産生され、この過酸化脂質はがんや動脈硬化のリスクを高めます。
 
膵臓がんの発生率や死亡率と魚の摂取量との関連を検討した7件のコホート試験の結果では、いずれのコホート研究でも、魚の摂取量が増えても膵臓がんの発生や死亡を減らす効果は認められていません。

その結果、「魚の摂取量と膵臓がんの発生リスクの間に関係はない」という結論が出ています。しかし、魚の調理法の違いを含めた詳細な解析を行うと、フライにしない調理法での魚の摂取は膵臓がんを予防する効果が示されたということです。

つまり、ハンバーガーの代わりにフィッシュバーガーを食べても、魚のがん予防効果も健康作用も得られないということです。
 
フランス人も魚の消費量は多いのですが、フレンチ料理は白身魚をフライパンやオーブンなどで焼いた料理が主です。一方、日本料理は生(刺身)や煮付けのような調理が多いので、魚の消費量が同じでも、その健康作用はかなり違ってきます。

がん予防の研究分野では、魚を油で揚げたり、焼き魚にするのは、魚食のメリットを減少させていると考えています。


図:魚の調理法で、生(刺身)や煮魚はドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などのオメガ3系多価不飽和脂肪酸の健康作用とがん予防効果が得られる。一方、焼き魚やフライにすると、DHAやEPAの量が減り、多価不飽和脂肪酸は酸化し、トランス脂肪酸や発がん物質も増える。魚は焼いたり油で揚げると、その健康作用とがん予防効果は低下する。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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