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47)スペルミジンは老化を抑制し、寿命を延ばす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術47

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【食事の内容が老化速度や寿命に影響する】

 生き物は加齢とともに老化が進行します。「加齢」は年齢と同じ意味で、誕生からどれだけの時間が経ったかを示すものです。したがって、加齢を止めることも逆戻りすることもできません。物理的に過ぎ去った時間を巻き戻すことはできません。タイムマシンで過去に戻ることができないのと同じです。
 

一方、「老化」とは、大人になって以降、加齢に伴って体の機能が衰えていくことです。老化の速度や程度は個人差があります。老化速度は食生活や生活習慣によって人為的に遅くすることができます。つまり、寿命を人為的に延ばすことができます。さらに、老化のレベルを若い頃に戻すこともできます。つまり、若返りは可能です。

人為的に寿命を延ばす方法を考えるとき、食事の内容が最も重要です。例えば、地中海地方や沖縄の食事は、どちらも長寿と慢性加齢性疾患のリスク低下に関連していることが指摘されています。
 

両方の食事の類似点には、果物や野菜からの広範囲の抗酸化物質、ポリフェノール(レスベラトロールなど)、ポリアミン(スペルミジンやスペルミンなど)の摂取、および魚介類や魚(アスタキサンチン、健康な脂肪酸)の中程度から大量の摂取が含まれます。  

両方の食事とは対照的に、西洋型の食事は、不健康な脂肪酸(飽和脂肪酸)、赤身の肉、お菓子、および高度に加工された食品の大量消費により、健康に悪影響を与える可能性が指摘されています。


【スペルミジン補充は老化を抑制し、寿命を延ばす】

 ポリアミンは2つ以上のアミノ基(-NH2)を持つ物質で体内でアミノ酸から合成されます。体内には20種類以上のポリアミンが存在しますが、代表的なポリアミンとして スペルミジン,スペルミン,プトレシンが挙げられます(下図)。

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図:ポリアミンは2つ以上のアミノ基(-NH2)を持つ。


 ポリアミンはすべての動物やヒトの細胞内で,成長期に盛んに合成されます。核酸やタンパク質の合成を促進する作用があります。ポリアミンがないと細胞は増殖ができません。ポリアミンはアミノ基によるプラスの電荷で核酸類と強く結合しており、核酸の立体構造の維持に関与すると考えられています。生体内では前立腺、膵臓、唾液腺など、精子や酵素を作る組織に多く含まれます。
 

さらに、スペルミジンは発毛促進作用、抗炎症作用に基く動脈硬化抑制作用など様々な機能を合わせ持っています。髪の毛や爪の成長を促進し、艶を促進するので、美容やアンチエイジング(抗老化)のサプリメント素材としても注目されています。

スペルミジンの外来性の補給は、酵母、線虫、ハエ、マウスなどの多くの種において寿命と健康寿命を延ばします。人間でも、スペルミジンレベルは加齢とともに低下し、内因性スペルミジン濃度の低下と加齢に伴う生体機能低下との関連の可能性が示唆されています。
 

最近の疫学データはこの概念を支持しており、スペルミジンが豊富な食品によるポリアミンの摂取増加は、心血管疾患とがんに関連する死亡率を減少させることを示しています。食事からのスペルミジンの摂取が多いと寿命が延びることが複数の疫学研究で明らかになっています。以下のような報告があります。

Higher spermidine intake is linked to lower mortality: a prospective population-based study.(スペルミジン摂取量の増加は死亡率の低下に関連している:人口ベースの前向き研究)Am J Clin Nutr. 2018 Aug 1;108(2):371-380.

【要旨の抜粋】
背景: いくつかの動物モデルにおいて、スペルミジンの投与が生存率を増加することが示されている。
目的: 食事中のスペルミジン含有量とヒトの死亡率との間の潜在的な関連性を検討した。
方法: この住民参加の前向きコホート研究には、45〜84歳の829人の参加者が含まれ、その49.9%が男性であった。食事は、1995年、2000年、2005年、および2010年に栄養士が実施した食物摂取頻度アンケート(2540項目の評価)を繰り返して評価された。1995年から2015年までの追跡調査中に、341人が死亡した。
結果: すべての原因による死亡率(1000人年あたりの死亡数)は、スペルミジン摂取量が少ない下位3分の1の群が40.5(95%信頼区間:36.1〜44.7)、中央の3分の1の群が23.7(95%信頼区間:20.0〜27.0)、摂取量の多い上位3分の1の群が15.1(95%区間:12.6〜17.8)でった。年齢、性別、およびカロリー摂取量を調整した20年間の累積死亡率はスペルミジン摂取量が少ない下位3分の1の群が0.48(95%信頼区間:0.45〜0.51)、中間の群が0.41(95%信頼区間:0.38〜0.45)、摂取量の多い上位3分の1の群が0.38(95%信頼区間:0.34〜0.41)であった。
スペルミジン摂取量が平均から1-SD(標準偏差)の増加当たりの、年齢、性別、カロリー比を調整した全死因死亡のハザード比は0.74(95%信頼区間:0.66〜0.83; P <0.001)であった。
スペルミジン摂取量の上位3分の1と下位3分の1の群の間の死亡リスクの差は、5.7歳(95%信頼区間:3.6〜8.1歳)の年齢差に相当するものであった。
結論: 私たちの調査結果は、スペルミジンが豊富な食事が人間の生存率の増加に関連しているという概念に疫学的な支持を与えている。


スペルミジンの摂取量が多いと、45歳以上の集団で、20年間の死亡率が半分以下になることを示唆しています。スペルミジンを多く摂取すると、5歳以上も延命する可能性を示唆しています。


【スペルミジンはオートファジーを活性化して細胞を若返らせる】

 細胞内のタンパク質は絶えず分解して新しいタンパク質と入れ替わっています。このタンパク質の若返りに重要な役割を担っているのがオートファジーという現象です。  
 

オートファジー(Autophagy)という用語はギリシャ語の「自分」(オート;auto)と「食べる」(ファジー:phagy)を組み合わせた用語で、文字通り「自分を食べる」という意味を持ちます。日本語では「自食作用」と訳されています。オートファジーは細胞内の一部を少しづつ分解する細胞内のリサイクルのようなものです。
定期的な断食(絶食)や継続的なカロリー制限を行うと体が若返ります。その理由は断食やカロリー制限をするとオートファジーが亢進して、細胞が若返るからです。
 

オートファジー (Autophagy) は細胞内タンパクや小器官を二重の脂質膜で包み込み、これをリソソームに輸送して分解する仕組みです。
 

細胞が飢餓条件下におかれると、細胞質に隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れます。その後、膜は細胞質内の異常タンパク質や細胞内小器官を取り込みながら伸長し、先端どうしが融合して、オートファゴソームが形成されます。 オートファゴソームがリソソームと融合して内包物は分解されます。自己消化で得られたアミノ酸や脂肪酸などは栄養源として再利用されます(下図)。

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図:小胞体から分離した隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が現れ(①)、異常なタンパク質や細胞内小器官を取り込む(②)。その後、膜は細胞質を取り込みながら伸長し、先端どうしが融合して、オートファゴソームが形成される(③)。 オートファゴソーム内にはミトコンドリアなどの大きな細部内器官も含まれる。オートファゴソームがリソソームと融合すると(④)、内包物は分解される(⑤)。自己消化で得られたアミノ酸、脂肪酸、核酸は栄養源として再利用される。


 細胞は栄養飢餓に陥るとオートファジーにより細胞質内のタンパク質や小器官(ミトコンドリアや小胞体など)の一部を分解および再利用し、細胞の生存に必要なエネルギーやアミノ酸を得ています。
 

さらに、オートファジーを使い老廃物や損傷したミトコンドリア、病原体、異常タンパク質を除去しており、それにより神経変性疾患、がん、糖尿病、心不全、各種の炎症や感染症など、さまざまな疾患の発症を抑制していることが明らかになっています。つまり、オートファジーは細胞内の老化した成分を除去して細胞を若返らせる作用があります。断食が細胞を若返らせるメカニズムもオートファジーの亢進が重要です。
 

オートファジーが抑制されると腫瘍が発生しやすくなります。これは、細胞内に異常タンパク質や不良ミトコンドリアが蓄積することが引き金になると考えられています。

スペルミジンの外来性補給は、マウスを含むさまざまなモデル生物の加齢および加齢性疾患にさまざまな有益な効果を発揮します。たとえば、スペルミジンの摂食は寿命を延ばし、心臓と神経を保護し、抗腫瘍性免疫応答を刺激し、メモリーT細胞形成を刺激することで免疫老化を回避する効果があります。
 

これらの老化防止効果の多くは、オートファジーの活性化を通じてタンパク質恒常性を確保するスペルミジンの能力と関連があると考えられています。スペルミジンは、オートファジーの主要な負の調節因子の1つであるEP300を含むいくつかのアセチルトランスフェラーゼの阻害を通じてオートファジーを誘発します。
 

オートファジーを起こしにくくする遺伝子改変は、寿命に対するスペルミジンの有益な効果を無効にします。これはスペルミジンの寿命延長効果がオートファジーの活性化が関与していることを意味します。


【スペルミジンはテロメア短縮を抑制して寿命を延長する】

 スペルミジンの抗老化作用のメカニズムとしてオートファジーの誘導が最も重要と考えられていますが、さらにテロメア短縮を抑制して寿命を延長するメカニズムも報告されています。以下のような報告があります。

Novel aspects of age-protection by spermidine supplementation are associated with preserved telomere length.(スペルミジン補給による年齢保護の新しい側面は、テロメア長の保持と関連している)Geroscience. 2021 Apr;43(2):673-690.

【要旨】
老化は、心不全、神経変性、代謝異常、テロメア短縮、脱毛など、分子的、細胞的、生理学的な機能低下を引き起こす。
興味深いことに、分子レベルでは、細胞のリサイクルおよび洗浄プロセスであるオートファジーを誘発する能力は、多くの生物において年齢とともに低下し、加齢に伴う老化現象の原因となっている。
ここでは、高齢のマウスに飲料水中の天然オートファジー誘導物質スペルミジンを6か月間投与するだけで、加齢性病変の発生を大幅に抑制できることを示す。これらには、脳のグルコース代謝の調節、明確な心臓の炎症パラメーターの抑制、腎臓と肝臓の病理学的異常の減少、および加齢による脱毛の減少が含まれる。
興味深いことに、スペルミジンを介した抗老化作用はテロメア短縮の抑制と関連しており、スペルミジン投与のアンチエイジング効果の背後にある新しい細胞メカニズムを支持している。

スペルミジンの抗老化作用の主なメカニズムはオートファジーの誘導ですが、テロメア短縮を抑制する効果もあるという報告です。

細胞の中には細胞の分裂した回数をきちんと数える装置があって、ある回数を過ぎると細胞は分裂できなくなります。細胞の分裂回数に限界を設けているのがテロメアです。

染色体DNAの末端部分にはTTAGGGという配列が多数繰り返された構造がみつかりテロメアと名付けられました。この6塩基のリピート部分には遺伝情報が入っていないので、なくなっても遺伝子の発現には問題ない部分です。しかし、テロメアが無くなると細胞はDNAの複製ができなくなります。

DNAは2本の鎖状で、それぞれの鎖を鋳型にして新しいDNA鎖を合成します。新しい鎖を作るとき、DNAポリメラーゼという酵素が鋳型のDNA上を移動しながら、新生DNAを作ります。この酵素が鋳型のDNAに結合するためには、まずプライマーとよばれるRNAが鋳型のDNAの末端に結合する必要があります。

DNAポリメラーゼはRNAプライマーに結合し、そこから新生DNAの合成を開始します。その際、プライマーが結合した鋳型DNAの末端部は複製されません。そのため、細胞分裂でDNAを複製するたびに、染色体のDNA末端は少しづつ切れて短くなっていきます。
短くなっても問題ないように、最初から遺伝情報とは関係なく必要のないDNA配列(TTAGGGの繰り返し配列)がテロメアとして存在しているのです。

しかし、テロメアの長さに限界があるので、いずれはテロメアが無くなると、もはや細胞分裂ができなくなります。

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図:染色体の末端にはテロメアという構造があり(①)、この部分のDNAはTTAGGGという配列が多数繰り返されている(②)。細胞分裂するたびに、このテロメア部分のDNAは短くなり(③)、テロメアが無くなった時点で、細胞はそれ以上に分裂することができなくなり、細胞死が誘導される(④)。


つまり、テロメアとは「命の回数券」のようなものであり、分裂する度に回数券を一枚づつちぎって使い、やがて使い切ってしまうと細胞の寿命がくるというわけです。

ちなみに生殖細胞や幹細胞(骨髄細胞や消化管粘膜上皮細胞のように細胞回転が早い細胞を供給している細胞)やがん細胞のように無限に分裂できる細胞もありますが、これはテロメアを延ばすことができるテロメラーゼという酵素が働いて、テロメアの長さを維持しているからです。普通の細胞にはテロメラーゼ活性はほとんどありません。

抗老化の研究分野では、テロメラーゼの活性を高めて幹細胞の分裂能を高め、組織や臓器の老化による機能低下を抑制することを目的にした治療法が研究されています。

この論文の研究は、スペルミジンにテロメラーゼ活性を高めてテロメア短縮を阻止する効果を示唆しています。


【体内のスペルミジン量は加齢とともに減少する】

 スペルミジンは動物や植物や微生物などほとんどの生き物に存在するので、私たちは食事からスペルミジンを摂取しています。鳥のレバーや納豆、キノコ類、チーズ、小麦胚芽などに多く含まれます。スペルミジンは大豆に多く含まれ、大豆を発酵して作る納豆や味噌や醤油にはさらに含有量が高くなっています。

私たちは、1日に平均10mg程度のスペルミジンを食事から摂取していますが、食事の内容によって食事から摂取するスペルミジンの量は大きな個人差があります。
  

胎児や新生児の細胞ではスペルミジンを含めポリアミンの合成能力が高く、細胞の増殖能も高くなっています。また,ポリアミンは母乳にも多く含まれている事がわかっています。
 

しかし、加齢とともにポリアミンの体内産生量は減少します。年齢を重ねるごとにスペルミジンやスペルミンを合成する酵素の量や活性が低下するためです。したがって、高齢者がポリアミンの原料であるアルギニンやオルニチンをサプリメントとして摂取しても,スペルミンやスペルミジンの合成量や体内量が増加するわけではありません。したがって,スペルミンやスペルミジンは高齢 者では不足する傾向にあります。これが、スペルミジンを多く含む食品やサプリメントを摂取するメリットの理由です。 

ポリアミンの分子量は250以下で、低分子のアミノ酸と同程度なので、小腸から効率よく吸収され、血中に移行して生体内で効率良く利用されます。また、スペルミジンやスペルミンを分解する酵素は腸内には無いため、大部分がそのままの形で腸管から吸収され、全身の組織や臓器に分布される事がわかっています。
サプリメントとしてはスペルミジン含有の多い小麦胚芽を材料にして、スペルミジンを濃縮した製品が販売されています。

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このようなサプリメントや食事から、スペルミジンを1日に20mg程度摂取すると、認知症や心臓疾患の発症を予防し、寿命を延ばす効果が期待できます。髪の毛や爪の成長促進や艶を高めるので、美容にも有効です。スペルミジンに育毛効果があることが臨床試験で明らかになっています。以下の様な報告があります。

A spermidine-based nutritional supplement prolongs the anagen phase of hair follicles in humans: a randomized, placebo-controlled, double-blind study(スペルミジンベースの栄養補助食品は、ヒトの毛包の成長期を延長する:無作為化プラセボ対照二重盲検試験)Dermatol Pract Concept. 2017 Oct; 7(4): 17–21.

この研究では、スペルミジンのサプリメントによる補給が、毛包の成長期を延長して育毛効果を発揮することをランダム化比較試験で示しています。
 

60歳以上を過ぎて体の老化を実感する症状として最も多いのが、頭髪が薄くなることです。スペルミジンを多く摂取すると、老化による薄毛を予防でき、さらに毛髪を増やすことができます。つまり、体の若返りは可能であり、スペルミジンを多く摂取することは若返りに有効です。

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図:スペルミジンは育毛効果がある


体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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