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「ガウェインの一生」の参考文献リスト

2022年5月10日20時、
「ガウェインの一生」のStorytelling&Harpを配信させていただきました(↓のリンクに配信のアーカイブがございます)。

お聴きいただきました皆様、
ご感想よせてくださった皆様、
告知を拡散してくださった皆様、
大変ありがとうございました。

ガウェイン卿の中世作品におけるその見事な活躍!礼節の権化!愛の溢れる振舞い!騎士としての素晴らしい強さ!そして悲しみのあまり暴走してしまう人間らしさ。

そんなガウェイン卿の魅力が伝わっていたらいいな……と思っていたら!!

沢山ご感想をいただきまして💕💕
ガウェインの忠誠心&かっこよさが伝わっていて、とても嬉しかったです☺️ありがとうございました!!

さて、配信しました「ガウェインの一生」、多数の文献を混ぜ合わせてお届けしております。

お聞きになっている方の中で、こういう方はいらっしゃいませんか?

「原典にはなんと書いてあるか知りたい!!」

そんな方のために、参考文献リストをお作りいたしました。

なぜ作ったのかは……私が!聴いてる側なら!知りたいから!!(オタク)

お聴きいただいた方に私と同じタイプの方、もしやいらっしゃるかもしれぬ。これは書かねば!と思い(思い込みがはげしい)。

同じ方はどうぞどうぞどーうぞ!
ご覧くださいませ!!

さて、ここから↓下が詳しい紹介です。
しかし「ズラーーーッと書誌情報だけ見たい」という方はいらっしゃるかと存じます。
そのような方はこの記事の一番下をご覧ください。

まずは前置き。
聖杯探索の話をちらっといたしました。
それがこちら↓

『聖杯の探索』

あらすじ。

アーサー王宮廷の皆が食卓についているとき。光が差し込み、誰かわからない者が聖杯を持ってきて、素晴らしい芳香と素晴らしく美味しい食べ物が持ってこられ、聖杯は消えます。

それを受けて、ガウェイン卿は誓いを立てます。

「(前略)明朝私はただちに〈探索〉に出発し、一年と一日、必要ならそれ以上でも〈探索〉をつづけるであろう、と。(後略)」 
聖杯の探索 p.34より

ガウェインのその誓いにより他の騎士たちも、我も我もと聖杯探索に出る誓いをたてます。

さてその夜、ガウェインとランスロットは一緒に寝ました(これ。動揺しません?原典にそうあるんですよ……)。

翌朝、アーサー王が二人のいる部屋にやって来ると、ガウェインもランスロットも着替えをすませて王を「ようこそ」と出迎えます。

アーサー王はガウェイン卿をじっと見つめて、

「ゴーヴァン、ゴーヴァン、おまえは余を裏切ったね!(後略))
聖杯の探索 p.41

(フランス語だと、ガウェインはゴーヴァンになります)

アーサー王はガウェインとランスロットを愛するあまり、ガウェインが聖杯探索に行くことを宣言したことをめちゃくちゃ詰ります。

お別れが寂しいんですね……
王様はそういう人で大変可愛げに溢れています😌

ちなみにこの作品、面白いところは面白いのですが、いかんせんキリスト教のお説教が多く、わりとよく眠気に襲われます……。

でも名シーンもちらほらありますので、ちらほら読んでいただければ!!

さてさて、この調子で行くと夜が明けそうなのでサクサク参ります!

まずはガウェインの生誕からローマで育つ話。
ラテンものとフランスものを混淆しております。

まずはラテンもの。

こちらの作品にはガウェインが綽名の「トゥニカの騎士」と名づけられたエピソード。
アーサー王とケイ卿がガウェインに小川に落とされたエピソード。
王妃様が予言するエピソードなどがあります。

邦訳が出版されたこと自体大変ありがたい作品。
ガウェイン卿の小さい頃からアーサー王に会うまでのあたり、興味がある方は是非ご覧くださいませ😌

余談ですが、ロストテクノロジーで有名なギリシャ火薬についても載ってるます。

フランスものは論文で邦訳がでております。↓

↑のフランスものからは、ガウェインがローマ教皇のもとで育ったエピソード。
小樽でどんぶらこ流されたエピソードを。
いや、小樽詰めどんぶらこ。貴種流離譚!!という感じですよね〜。フフ、桃太郎感🍑

あとこちらのフランスバージョンのローマ教皇育ちを採用した理由としては……ガウェイン卿、他の作品で「礼節の権化」と言われてまして。

つまりローマ教皇のもとで育ってたら当時の最高のマナーを心得ている人=礼節の権化で繋がる〜!と思いまして。ウフフ。

次に。
ガウェインが皇帝に選出された件については↓

に収録されております、

『ゴーヴァンの幼少年期』──失われた物語の断片群(第2部と第3部)ジャン=シャルル・ベルテ 渡邉浩司・渡邉裕美子訳

に引用で出てくる『ペルレスヴォーズ』という物語の翻訳からです(孫引きですみません)(『ペルレスヴォーズ』は邦訳文献がなく……)。

該当箇所の翻訳を引用で載せておきますね↓

教皇は手紙を開封すると、子供が王の息子であることを知り、子供のことを憐れみました。そこで自分のそばに留め、子供には教皇の家族の一員だと伝えました。その後、若者はローマ皇帝になるべく選出されましたが、それまで隠していた己の出自を非難されないために、若者は皇帝になることを望みませんでした。
『ゴーヴァンの幼少年期』──失われた物語の断片群(第2部と第3部)ジャン=シャルル・ベルテ 渡邉浩司・渡邉裕美子訳

そして、ガウェインが日中に力が増大するエピソードにつきましては↓

↑の『アーサー王の死』天沢退二郎訳 より。

フランスの〈流布本サイクル〉だとか〈散文ランスロ〉だとか呼ばれているバージョンですね。

一般的に有名なイギリスのサー・トマス・マロリーの『アーサー王の死』は、このフランスの流布本より後。

また、このフランスの流布本の方がマロリーより、どちらかと言うと丁寧に丹念に描写されています。

マロリーの方だと午前9時から正午までガウェインの力は三倍になってますが。

流布本の方だと、赤子ガウェインに洗礼をほどこした人が、

このお子(ガウェイン)は、お仲間のいかなる騎士よりもたちまさって、生あるかぎり、正午頃には決して打ち負かされることはないでしょう。
『アーサー王の死』天沢退二郎訳   
p.195

若干アバウトですね。

ちなみに洗礼をほどこした人の名前はフランスでのガウェインの名前「ゴーヴァン」になっています。


さて、ローマ戦についてですが。
こちらは↓

こちらに収録されているヴァースの『アーサー王の生涯』から。

これはいわゆる『ブリュ物語』(1155年頃)といわれるものの抜粋です。

『ブリュ物語』の元ネタは『ブリタニア列王史』。

『ブリタニア列王史』はアーサー王伝説の著作の歴史をひもとくとき、欠かせない重要文献。本格的にアーサー王伝説を知りたい方には、マストな文献です。

しかしその『ブリタニア列王史』が。絶版で古本が高騰してるのです。
大阪の図書館で借りて読んだことはあったのですが、京都の図書館にはなかったので……手元にあるこちらの文献を使うことになりました。

この作品、ガウェインが大変血の気が多く、かつ褒め讃えられているため、戦記が好きな方におすすめ!!

さて、ガウェインとラグネルの結婚。
こちらはロマンスが、邦訳で二種類出てるんですが、今回は最近訳されたものを参考にいたしました。


「すべての女が望むものは何か?」
という……そんな人類最大の問いみたいなのの答えが何だったと思いますか?
後にガウェインの妻になるラグネルが正しい答えを言っております。
少し引用いたしましょう。

あたし達はね、他のどんなものよりも
男たちを支配する力がほしいんですよ。
位が高かろうと低かろうと、すべての男のね。
その力が手に入れば、なんでもあたし達のもの。
戦じゃ負け無しの
よほど恐ろしい騎士さま相手だろうとね。
あたし達の望みは、男の中の男。
そういう殿方を支配する力を持つこと。
それが、あたしたち女の手練手管なのさ。
試訳中英語ロマンス The Wedding of Sir Gawain and Dame Ragnelle 玉川明日美

……なかなかすごいですよね。
このラグネルの望みをきちんとガウェインが叶えてくれたので、呪いは消えたわけですが。

これ、家庭内で妻の尻に敷かれるような話とも取れるのですが。「すべての男」と言ってるので、女王が君臨すべきだと言ってるようにも解釈できます。

そしてお話の最後にはガウェインがラグネルに支配権を渡した後、ラグネルは「もうあなたに不愉快な思いをさせませんわ。」と言っていて。
なんとも仲良くまるく収まったものです……いいですね。ほんわか。

美女と野獣の逆のバージョンですね。
もっともケルトのお話に、そもそもこういう男性が醜い女性に口付けるようなお話があるわけですが。

話が逸れました。さて、お次は最期の話。

こちらは、
イギリスのマロリーの著作。
フランスの流布本。

ふたつの混淆です。
どちらの著作にも名シーンがあるので削りたくなかったのでそうなりました。

↓マロリーの著作。

抄訳もありますのでこちら↓でも。

ガウェインからランスロットへの手紙がね。
泣いてしまう……。
読んだ時にはもうガウェイン卿は死んでるんですよ。

そして。

弟の遺体を抱きしめて、殺した者に懲罰を……!とガウェインが決意を固める……悲壮なシーンがあるのがフランスの流布本。

この作品は、正午にガウェインが強くなる由来が書かれている作品なので既に↑に紹介済ですが、再度のご紹介を。

ガウェインが閉じこもってたのから出てきたとき、周りの人たちが「行ってごろうじませ!」と弟の死を見に行くのを口々に言うのがね。怖いですよね。正真正銘の悪夢。

フランス語なので弟の名前がガエリエになってるんですが。
ガエリエが英語における「ガレス」なのか「ガヘリス」なのかわからないんですよ。

今回は「ガレス」バージョンにしましたが、「ガヘリス」バージョンも捨てがたいんです。

ガウェインが頭に血が昇っているとき、弟ガヘリスが諌めたらちゃんと言うこと聞くところがあるので(これはマロリーの著作の方の話)。
ストッパーになってた弟が死んで、今まで歯止めが効いていたのが効かなくなった……と考えるとね……それもありなんですよね……。

では最後に。
一番最初に語りましたマーリンの予言。
ランスロットが己が最も愛する男を殺すであろうというあの予言はこちら↓

……是非、お読みになってみてください。

これにて参考文献リストを終わります。原典が気になる〜!!という方の参考になりましたら幸いです。

ここまでお読みくださりありがとうございました。

お心になにかしら響きましたら。
いいねやコメント、シェア、サポートなど、なにかしら反応をいただけましたらとても嬉しいです。

次回は夏至の日に「クー・フーリンの一生」を配信or公開する予定です。

今度はケルトの英雄!!
夏至の日 6月21日20時。

是非また、お会いいたしましょう。

お相手は吟遊詩人の妙遊でした。



参考文献リスト

1.『聖杯の探索』天沢退二郎訳 人文書院
2.『アーサーの甥ガウェインの成長記 中世ラテン騎士物語』瀬谷幸男訳 論創社
3.『中央評論』2021SPRING 73巻1号 No.315 中央大学出版部内 中央評論編集部
4.『中央評論』2021SUMMER 73巻2号 No.316 中央大学出版部内 中央評論編集部
5.『中央評論』2021AUTUMN 73巻3号 No.317 中央大学出版部内 中央評論編集部
6.『神話と昔話・その他』GRMC2020 篠田 知和基 編 楽瑯書院
7.『フランス中世文学集4 奇蹟と愛と』訳 新倉俊一 神沢栄三 天沢退二郎 白水社
8.『フランス中世文学名作選』訳 松原秀一 天沢退二郎 原野昇 篠田勝英 鈴木覺 瀬戸直彦 福本直之 細川哲士 横山安由美 白水社
9.『立教レヴュー』第48号 立教大学文学部英米文学科
10.『アーサー王物語 5』トマス・マロリー著 井村君江訳 筑摩書房
11.『アーサー王物語1』トマス・マロリー著 井村君江訳 筑摩書房

吟遊詩人は旅するもの。我が旅の軌跡が少しでもあなたの心に響きましたら、ぜひとも旅の路銀を投げ銭くださいませ🪙