u・e・Ru №2「乾く」(詩)

「乾く」


」から語り始めようと想う

かつて 大牟田川は紫色の水が流れる河だった 空を暗くするほどのゴウゴウと煤煙を吐き出す煙突 それよりもインパクトのあるの人工的なにおいを放っていた河 

それは人間の血管の中に流れる どす黒い欲望を 切り開いて見せ付けているような 烈しい勢いでいつもいつも流れつづけていた 

それが ぼくにとっての 最初の「河」だった             弟と裏山の墓地に探検に行った 

最近 そこを尋ねたら 火葬場ごときれいサッパリ整地され 小奇麗な住宅地になっていた いくらその住宅地を眺めていても 弟とこわごわ 探検した 湿った墓地は 想像も出来なかった 見ず知らずの 犬を連れて散歩する人や 立派な表札をながめ ながら

こんな小さな土地だったんだ

あのころは煙がいつもたなびいていた火葬場が 遠くて大きく見えていたことも嘘のように思えた


弟とぼくは あの墓地には地面から手が出ているとか 散々怖い話を聞いていたから 本当に 墓地の間を抜ける細い道を 運動靴のおとにもおびえ ザーと時折吹く 風にもおびえながらあるいた

喉がガラガラに渇いた 
地面からは何百本も手が生えている  そんな風に思えた そのとき 弟が 古銭をみつけた 真ん中の穴が欠けた 錆びきった「寛永通宝」が数枚落ちていた 土の色と寸分変わらない 古銭 ぼくは拾ってはいけないような気がしたが

弟は躊躇なく 拾っていった 夏なのに 涼しい 日だった 


乾いた風を待ち焦がれて 小さな墓地さえ ワンダーランドだったあのころあれから もう 30年以上の月日が流れた              じりじりと

となりながら

もうやってこない 時間と空間

あの乾き


☆弟は今年7月心筋梗塞で逝去しました。


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