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詩)知花くららの短歌と生きてきた「場」


父は1977〜1995年、労働組合書記長を務めていた
夜中まで背中を丸めて書き物をしてゐた小さなアパートの居間で
しゆぷれひこ一る
吾の手をにぎる父のあそびうた安保粉砕軍事基地撤去
鉄線のむかうに透けてあめりかはありぬ自転車に乗れし日も
戦後、祖母は基地の中でメイドの職に就いた
ノーサンキュウと笑ふ祖母のめじりにはあの日の記憶が畳まれてゐる
生きてゐてすまなかつたと泣く祖父の背中に落ちし一片のこもれび
1945年3月慶留間島に米軍上陸
とほあさの珊瑚はやさしくゆれてゐたちひさな島のあの春の日も
道ばたの落葉の軽さに散らされし命のありぬかの日々のこと
集団自決で多くの村人が亡くなった
手榴弾のなければ細き青草で首しめあひぬ あしびな一の森で
                                         注:あしびな一遊び庭
とおくから死んではだめだと声がして指に残りぬ人肌のぬくもり
知花くらら第1歌集「はじまりは、恋」より


湘南海岸は晴れ
富士山が見事だ
江ノ島も手が届きそうな感じにくっきりだ
砂遊びしている子ども
手作りの紙飛行機を飛ばして遊ぶ子もいる
ワンちゃんが何やら話しかけている

柔らかな日差しに囲まれて
穏やかな波
きっとこんなところに子どもの時からいたら
なんの心配もなく人生を過ごすことになるだろう
世界はもう狂い始めているとしても

場とは
生まれ 食い 出会い 
生まれたという刻み
匂い   吊るされた玉葱
音      ビュンビュンと揺れる鉄道の架線
記憶   田んぼのまん中のあまがえるの行列とまっ黄色の傘の行列
青い風が寒々と吹いているのをいつまでも眺めている
時間はとめどなく流れ 自分の中で自分が戻れるところ

場 それは
人をつくる
否応なく不可避に
不条理だとしても。
生まれた場と時間に
ぼくは初めから
断罪されていたのかもしれないのだ

くぼくの抱えてるもの 寂しさとかを全部 移植してあげれたら〉

昨日まで普通に暮らしていた男が
病院から出られなくなったとしよう



そこに場があると
果しなくも
思うだろうか

この混沌とした世界が
今にも
狂ってしおうとしているのに


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