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7インチ盤専門店雑記579「ロック逍遥4:アージェント~ジェネシス」

アージェントは日本ではさほど人気がないプログレ・バンドですが、結構いい曲もいいアルバムもあります。私はライヴ盤から入ったので、彼等の意外な側面と言われるライヴ・バンド的な演奏重視のプレイが好きだったりします。レオ・セイヤー〜ロジャー・ダルトリー絡みでここのところ名前を出しているドラマーのボブ・ヘンリットは、極々初期のツインバス連打の、言ってみれば16コ打ち的なフレーズの煽るドラムスを聴かせていた人間です。後にキンクスに加入したことが、実はもの凄く意外な「タイプ違わないか?」というハードロック・スタイルのドラマーだったりします。

一方でリーダーかつキーボーダーのロッド・アージェントは、元ゾンビーズ、美メロを書く人です。ギターのラス・バラードもそうですが、いい曲を書く人たちですから、過小評価されているという印象が拭えません。ただ、アージェントとしての活動終了後が何と申しましょうか、好きなことをやっていらっしゃるのでしょうが、一貫して「売れなさそう」と思わせるようなものばかりです。例えば、以前に「ジムノペディ」について書いたことがあるのですが、これもその一つ、1977年、アージェント後の方向性を示すべき時期に何ともポヨ~ンな演奏を聴かせます。

1980年代はまだいいんです。コロシアムのジョン・ハイズマンの奥さんのバーバラ・トンプソンとコラボ・アルバムを作ったり、クレオ・レーンのブレインかつダンナのジョン・ダンクワースとアルバムを作ったり、その後はRobert Howesという、よく分からん人とコラボ・アルバムを何枚も作ってみたり、…全く売れませんけどね。その後はゾンビーズの再評価等もあって、過去の栄光に胡坐をかいちゃったかなという活動しかありません。

面白いのが、1978年にリリースした最初のソロアルバム「Moving Home」でしょうか。ここでは全曲フィル・コリンズがドラムスを叩いております。売れてないので忘れられがちですが、ジェネシスでもなく、ブランドXでもなく、あの忙しい人が全曲通しでドラムスを叩いている盤は珍しいわけですよ。しかも時期が時期なんです…。

ご存知ジェネシスは1976年に2枚のアルバムをリリースします。2月に「A Trick Of The Tail」、12月に「Wind & Wuthering」です。1977年はアルバム・リリースはなし、1978年3月に「…And Then There Were Three…」がリリースされます。一方、Brand Xは、1976年6月に名盤「Unorthodox Behaviour」でデビュー、続けて1977年4月に「Moroccan Roll」をリリースしますが、もうゴタつき始め、1978年9月リリースの「Masques」には参加しておりません。1978年のロッド・アージェントの「Moving Home」に全曲参加して叩いているというのが、何とも微妙な時期の意味深な行動であると思いませんか?

余談ですが、1977年リリースのアンソニー・フィリップス「The Geese And The Ghost」は1974年頃から録音していたというアルバムですから問題ないでしょうし、ブライアン・イーノのところでは、1977年「Before And After Science」、1978年「Music For Films」で叩いていますが、2~3曲です。その後はロバート・フィリップ、ピーター・ガブリエル、マイク・オールドフィールドあたりのアルバムにクレジットされておりますが、同様に全曲参加はありません。…凄い面々ですけどね。

英国ロックの連中は、本当に狭い社会の中でくっついたり離れたりを繰り返していたようで、時系列を意識して調べたりすると結構面白い人間関係が見えてきたりします。アージェントはラス・バラードの曲を誰がカヴァーしたかという話題は目にするものの、ロッド・アージェントの行動などは滅多に話題になりません。ちょいと周辺領域かもしれませんが、だからこそ面白いとも言える辺りだと思います。

昨日、この盤にちょっと絡んだ昔の文章をアップデートして上げておきました。もしご興味がおありでしたら、コチラも読んでみてください。…20年近く前に同じようなことを書いている、かわりばえのしないヤツです。


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