下町音楽夜話 Updated 019「ピーター・ヴァン・フック?」
超久々の下町音楽夜話のアップデートです。ここのところ続けているロック逍遥の一連の文章でロッド・アージェント周辺について書いていたところ、ドラマーのピーター・ヴァン・フックの名前に目が留まり、「昔書いたな」と思いつつGoogleで検索してみました。そうしたところ、なんと2005年1月15日の下町音楽夜話が2番目に出てきてしまい、アップデートしてnoteで読めるようにしなければと相成りました。20年近く前に書いた文章がグーグルの検索結果の2番目ってどれだけマイナーというか人気がないんですかね…。以下はその文章のてにをはを修正しただけに近いものです。よろしくお願いいたします。
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加齢のせいか、物忘れがひどくなってきた。ミュージシャンの名前に関しては、データベース頼りになっている部分があり、ワープロを使うようになって漢字が書けなくなったのと同じように、おぼえられなくなってきているのだろうか。最近はインターネットの検索エンジンという有り難いものもある。グーグルで意味が思い出せない言葉や人の名前などを入力して、「ああ」とため息をもらすことがなんと多いことか。とにかく出てこない。特に人の名前がまずい。誰だっけ?ということが非常に増えてしまった。ミュージシャンならまだいいのだが、たまにミュージシャンでない場合もある。新聞などで目にしたドイツあたりのサッカー選手の名前だったりする。実に情けない。
先日もピーター・ヴァン・フックという人間の名前が頭に浮かんできてしまい、これが誰だか判らなくて、えらく気分が悪い悶々とした日々を過ごしてしまったのだ。PCに向かっているときに思い出せば直ぐに調べるのだが、車を運転しているときや、地下鉄の中、そして仕事での接客中などにふっと浮かんできてしまい、イライラすること一週間。ようやく夜中に浮かんできてくれたので、検索することができた。インターネットのおかげで、とにかく分からないことがあれば何でも調べられるというのは、本当に有り難い環境になったものだとも思っている。
さて、当のピーター・ヴァン・フック、検索したにはしたが、これがまた難しいことになってしまった。彼はやはりミュージシャンだったが、リーダー作を持たないドラマーなのだ。そして、インターネットの検索で引っかかってきたのは、ニール・イネスやジュールズ・シアーといった、さほど興味もない人間のアルバム紹介ばかり。何ゆえ自分がこの人間の名前を思い出して仕方がないのか、悩みを一層深めてしまうことになってしまった。ただ「PETER VAN HOOKE」というスペルが判ったので、自分が構築したデータベースで検索してみて、ようやく解決した。
とにかく自分がやたらと好んで聴いているミュージシャンのバックアップをしているドラマーなのである。順に観ていくと・・・、まずマイク・アンド・ザ・メカニクスの大半のアルバムでドラムスを叩いている。ジェネシスのマイク・ラザフォードが主催するこのプロジェクト的なバンドは、グッド・メロディーズの宝庫だ。同バンドのヴォーカリスト、ポール・キャラックのソロ・アルバム、1987年の「ワン・グッド・リーズン」にも参加している。この辺は納得できるつながりだ。これで、最近よく目にした名前だったのかということが理解できた。インターネットもまださほどのものでもないのかな。
しかしそれだけでは済まされない。この男、辿っていくと、なかなか面白い人脈を持っているのだ。次に引っかかったのが、コリン・ブランストンとロッド・アージェントのコンビが1960年代に活躍したゾンビーズ以来、約30年ぶりに共同作業を行ったアルバム「アウト・オブ・ザ・シャドウズ」にもクレジットされているではないか。ゾンビーズ解散後、ロッド・アージェントが従兄弟のジム・ロッドフォードらと結成したアージェントは、大好きなバンドの一つなのだ。「ホールド・ユア・ヘッド・アップ」などのヒット曲も持っている。ロッド・アージェントとラス・バラードという素晴らしいメロディメイカーでありながら歌も上手い二人が同時に在籍していたのだから、何とも贅沢なバンドである。スリー・ドッグ・ナイトで大ヒットした「ライアー」も彼らがオリジナルだ。
さてラス・バラードは、アージェント脱退後、やはり数々の名盤をリリースしている。サイモン・フィリップスやモ・フォスターらと作った「ラス・バラード」(同名盤が1974年にもあるが、ここで触れているのは1984年にリリースされた方のアルバムである)や、トトの全面的なバックアップで製作された「アット・ザ・サード・ストローク」など、好きな盤が何枚もある。特にポップな曲づくりが評価され、レインボーが大ヒットさせた「シンス・ユー・ビーン・ゴーン」や「アイ・サレンダー」などの佳曲の作者として知る人ぞ知る存在である。ピーター・ヴァン・フックは、「ラス・バラード」でも叩いているのだ。よくぞここまで、グッド・メロディーズを作るミュージシャンのバックアップをしているものだ。もう少しメジャーな存在でもよさそうだが、有名とは言い難いことが不思議でならない。
そもそも、イギリスの音楽界の奥深さ、それ自体が半端ではなく、不思議な世界を作り出しているのだ。勿論アメリカと比較すると人口が全然違うのだが、それでも、愛読してやまないレコード・コレクターズ誌の別冊として「英国ロックの深い森」と題する2冊構成のムックがあるほど奥深いのだ。この自分でさえ、ここに紹介されているミュージシャンは、名前すら聞いたことがない人間やグループが大勢いるのだ。知れば知るほど奥が深い。ただ、セッション・ミュージシャンとなると、前述のように、結構狭い社会なのかなと思わせるところもある。そこがまた面白くもある。
あれ、ロッド・アージェントの1978年のソロ・アルバム「ムーヴィング・ホーム」では、ジェネシスのフィル・コリンズがドラムスを叩いているな。何か人脈が一巡して戻ってきたぞ。やはり相当狭い社会なのかな・・・?おや、この盤、アコースティック・ギターで、ゲイリー・ムーアがクレジットされている。1970年代の彼はシン・リジーを出たり入ったりした上にコロシアムIIを立ち上げたりして、ヘヴィ・メタルの急先鋒だった頃ではないのかな。後々、メタリックなブルース・ロックでヒットするこのギタリストも、あちこちに顔を出すヤツだからな。うーん、芋づる式にデータベースを見始めたら止まらないな。でもグッド・メロディーズの一覧なんて検索しようがないし、当然データベースにも限界があるわけだ。あとは記憶を辿っていくしかないのだろう。しかし、加齢のせいか、物忘れがひどくなってきたから、・・・あれ、こっちも一巡してしまったな。結局行き着くところは「年だなあ」ということか。
(本稿は下町音楽夜話134「ピーター・ヴァン・フック?(2005.01.15.)」に加筆修正したものです)
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