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7インチ盤専門店雑記464「1976年のスプリングスティーンは…」

まいど女性が数人ご参加くださるイベントで、こういった素材を取り上げるべきか非常に悩ましいのですが、今回はお許しを乞うてご紹介しようかと思います。要は女性の裸の写真が載っているような男性誌を回覧しようとしているわけです。あまり不快に感じないでいただければと思いますけどね。

月刊「PLAYBOY」1976年7月号

某広告会社にお勤めだったNさんという、その筋では有名な方がいらっしゃいます。どういうわけか、彼が「面白いものが手に入ったんだよ」と満面の笑みでいろいろ持ち込んでいらっしゃいます。この極初期のプレイボーイも、20冊ほど大汗をかきながら持ち込んでいらっしゃいました。「預かりものだ」とおっしゃってましたが、何故か「(ウチのお店に)置いといて」ということになっております。

例えば上記1976年7月号、創刊1周年記念号と書いてあります。これにヘッダー写真のようなブルース・スプリングスティーンの記事が載っているんです。しかも書き方が「『タイム』と『ニューズウィーク』誌の表紙を同時に飾った男」といったものです。音楽的にどうのということではなく、如何に注目されているかという方向性で5ページの記事になっているわけです。

今現在の我々は、彼がこの後どれだけヒットを量産したか知っていますし、うつ病に苦しみながらも名盤を何枚も作ったことも知っています。9.11の後、アメリカを励ます「The Rising」は毎度涙が出そうになる名曲だったりします。でもこれは1976年の6月頃に発売になった雑誌ですから、そんなことは分からずに書かれているわけです。1975年8月にリリースされた大名盤「Born To Run」がヒットしていた時期ですが、まだ3枚目のアルバムですから、要は新人扱いです。「新しいディランと呼ばれた男」などと紹介されたという調子なんです。

今現在はインターネット社会になって、本当に何でも簡単に調べられます。検索のキーワードさえ上手く入力できれば、ほぼどんな情報でも辿り着けます。でもその情報は当然ながら現代から遡る、その後の経過を知ったうえでの情報ばかりです。当時に遡ってどういう風に見られていたかを調べるのは、なかなか骨の折れる作業になります。これが古雑誌を手に取るという、実にアナログな、ローテクな作業で、いとも簡単にできてしまうわけです。使わないと勿体ない情報がそこにはあり、時間軸に左右されないメタ認知的な客観性を、簡単に手に入れることができるんです。

これまで、このことを指摘した文献等を目にしたことがないのですが、実はウェブの弱点の一つとも言える側面ではないかと考えております。そもそも、ウェブは上書き文化が中心にあって、古い情報はどんどん消され、「新しくて正しい情報」に上書きされていってしまうんです。「昔はこんなふうに今とは違った見方をしていた」とかいった部分が抜けてしまいがちだと思うんです。温故知新的に古い物にあたって情報を得ることは、単に古いことを知るだけでなく、現在の情報に幅を持たせる役割もあるように思います。

自分はイベントの中で「空気感」という言葉をよく使うわけですが、その後の数十年を知ったうえでの正しい知識よりも、まだ分かっていないながらも、部分的に正しかったり、ちょっと違うのではという情報にあたることで得られる感覚が、意外に面白いのではないかと考えるわけです。面倒かもしれませんが、紙ものの資料などを回覧することで、当時の空気感を少しでも味わっていただければと思います。大音量で聴く当時の楽曲も楽しいですが、本やレコード・ジャケットなどを手にすることで蘇る記憶もあるのではないかと期待しております。


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