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7インチ盤専門店雑記444「ケルアックとロバート・フランク」

1958年に刊行されたロバート・フランクの「THE AMERICANS」という写真集がありまして、大好きなのであちこちでオススメしております。ジンジャーにも置いてあります。いいぞと言ってもなかなか伝わらないのですが、ぜーったいに一度は目を通しておくべき写真集です。アメリカの現実、狂気を孕んだ日常を客観的に描出した写真集は、当初好意的には受け入れられなかったようですが、今となってはアートの新ジャンルを開拓した逸品として高く評価されております。この写真集のイントロダクション=前書きはジャック・ケルアックが書いておりまして、私のようなビートニクやカウンターカルチャー好きには、もうそれだけで手が伸びてしまう一冊です。

ロックのレコードでは、ローリング・ストーンズの「メイン・ストリートのならず者」がここから多くの写真を引用しております。このアルバム制作時、ミック・ジャガーたちはポップアートのジョン・ヴァン・ハマーズベルトにアプローチします。そこで相方の写真家ノーマン・シーフに繋がり、そこからドキュメンタリー写真家のロバート・フランクに繋がったということです。

「THE AMERICANS」をケルアック関連のものとして購入したもので、最初は「どこかで見たことある」的な既視感にまみれ、しばらく手元に置いて眺め続けました。そしてようやく、「やっぱり見たことある」となって、いろいろ調べたところ、「メイン・ストリートのならず者」というキーワードに辿り着き、「あれか!!!!」となったわけです。

ジャケットの内外と内袋に大量の写真が掲載されておりまして、…ありますねぇ。

まあ、そんなわけで大事にしておりますが、結局のところカウンター・カルチャーという切り口で考えれば、簡単にケルアックに繋がる作品集なんですが、今となってはそれも説明されないと分からない人も多いかもと感じてしまいます。アメリカの現実と狂気を客観視するということは、アメリカの栄光を絵空事として否定するわけで、「アメリカ・アズ・No.1」な右寄りの人たちには許せない存在なわけですね。世界中が右傾化する昨今、あらためてこの写真集の存在意義を考えてみるのもアリでしょう。

先般50s-60sのサブカルに関するトーク・イベントを開催したもので、先週あたりアタマの中がカウンター・カルチャー一色になっていたのですが、そうするとこの写真集の存在地がカウンター・カルチャーのど真ん中だと気がつくわけです。…結局イベントでは紹介し忘れてしまったのですが、まあもう少し深掘りする回にとっておきましょうかね…。(負け惜しみ)

では何故英国のローリング・ストーンズが「メイン・ストリートのならず者」でこの写真を起用したのかという部分も、人種差別やジェンダー、市井の人々のシンドイ日常のような部分に焦点をあてている写真集であることを考えれば、ブルースマンの延長上に自分たちを置きたいストーンズにとっては恰好の素材なわけですし、そもそもローリング・ストーンズはブリティッシュ・インヴェイジョンと言われてアメリカ市場を開拓・侵略するにあたり、「19回目の神経衰弱」などと実に辛辣な現代アメリカの病巣を批判する歌詞で切り込んで行ったわけです。…すべてにおいて辻褄の合う選択ではないでしょうか。

ジャック・ケルアックに関しては、「Kerouac’s Big Sur」というフィルムがありまして、ケルアックが住んでいたカリフォルニアのビッグ・サーを舞台に様々な旧友たちとの交流を描いた「ビッグ・サーの夏」という人気小説の映画化と言えるものです。回りくどい言い方ですが、如何せんサントラ盤というべきアナログ・レコード「One Fast Move Or I'm Gone : Kerouac's Big Sur」に130分のDVDがついておりまして、シンプルに映画のサントラと呼ぶ気になれない代物が手元にあるわけです。

こちらは、サン・ヴォルトのジェイ・ファーラーとデス・キャブ・フォー・キューティのベン・ギバードがやっているというので購入したLPですから、自分的にはこれでいいのですが、まあ本末転倒かもしれません。それでも、こうやっていまさらにケルアック研究を楽しんでいるわけで、…老後も忙しくしている理由の一つだったりします。

先般のイベントで50s-60sのサブカルに関して、台本無し、原稿無しで3時間しゃべくりまくったもので、参加者さんから呆れられておりましたが、生まれる前やリアルタイムで聴いた音楽ではなくても、普段から研究していますから、しゃべることくらいはできます。驚かれることでもないんです。…やるやらないは別の話ですけどね。

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