chapter1-2. No one’s ambitious
chapter1. someone's lost
2. No one’s ambitious
深い霧の中、月光を掴み取ろうと遠くに見える塔へ脚を進めていた青年は、霧の中に立ち込める鋭く残忍な空気に脚を取られ転倒してしまい、深い谷底へと転げ落ちてしまいました。
谷底で目を覚ますとそこには魂を奪われてしまった肉体だけの人間がたくさん蠢いていました。
そこには数年前村を飛び出し、以来行方不明になっていた人間の肉体のみの姿もありました。青年は恐怖を感じ、慌ててその場所を飛び出し、歩いていた道へと戻りましたが魂を失った肉体だけの人間の姿が頭から離れず、それ以来魂を失ってしまうことに対する恐怖感に苛まれるようになってしまいました。
それからと言うものの、魂を喰らう怪物の事が気がかりになってしまい、風で木々が揺れる音や響く自分の足音に恐怖を感じてしまい、歩き疲れていても休んで眠ることすらままならない状態でした。
恐怖感と霧の中の残忍な空気感や重力の重さから、村に帰ってしまい再び何にも気づかない振りをしながら日々を重ねる暮らしに戻ることも度々考えることもありました。
恐怖心から道の途中で立ち止まってしまった時、ランプを付け、革命の戦士の伝記を読み返してみました。伝記からはまだ見ぬ世界に対する期待や大きな希望を再び思い出すことができ、大きな心の支えになりました。
しかし、青年と戦士についてある違いに気付きます。それは、伝記に記された戦士は王国に対して戦いを挑む際に彼に賛同した仲間を引き連れて戦いを挑んでいたのに対し、夜空に浮かぶ月を手に入れようとした青年には、青年の話を信じて彼を応援し、協力してくれる人なんて一人もいなかったということです。
彼は誰も分かってくれない大きな寂しさで胸が痛くて仕方がありませんでした。自分の境遇を怨み続け、絶えず襲ってくる空虚感に心を詰まらせていました。
しかし、月の光を手にする野望やまだ見ぬ世界への期待には逆らいきれず、再び重い足を進めるしかありませんでした。
空には霧の隙間から下弦の月が浮かんで彼を照らしました。
その頃、深い霧に包まれた村の中では、青年の発言によって、村の人々の気持ちに少しの迷いが生じ、人々の心に灯る光に少しの陰りが生まれ、ある日村で育てていた作物に不況が訪れました。
村ではおかしなことを言った青年に対して、怪物に取り憑かれていたからだという噂が広まり、彼を作物不況の根源とし、彼は悪者として扱われるようになりました。
しかし、青年の話を信じずとも彼を悪者とは思いきれなかった一部の村人達は彼を連れ戻し再び安全な暮らしをさせようと、霧の中へ青年を探しに足を踏み入れることにしました。多少のまだ見ぬ太陽や月に対する期待も微かに胸に。
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