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短編小説 萬田氏の密かな楽しみ1  糞餓鬼(1480字) 

萬田氏は3月29日をもって長年勤めた会社を定年65歳で退職した。
営業職としてセールストークに磨きをかけて来たのだが10年前に営業職を職位定年して畑違いの庶務営繕職にとなった。
この辺りからだろうか、社交的で話好きだった萬田氏は無口な人嫌いになった。
プライドをズタズタにする窓際実業派の仕事はストレスたっぷりだったが、切り替えの早い萬田氏は、何とか切り抜けた。
仲間と飲みに行く事も減り、孤立する感覚も有ったが、家に帰ると家族が暖かく向かえてくれ助かった。
ただ夜は辛かった。良く眠れない、何か覚えていないが、魘されるのである。睡眠時間としては十分に寝ているのだが、睡眠の質が悪いのだろう、魘され、朝、起床時が一番疲れている状態が10年近く続いた。
やっと定年退職し、さあ自由だ、フリーだと思ったが、やる事が無い、公園、図書館、土手の散歩、釣り、山登り、ドライブ、何処も老人で溢れ帰って自分を鏡で見ている様に思え、ため息しか出なかった。
しかし、ある夜から良く眠れるようになった。
夢に、糞餓鬼が現れる様になったのである。
夢の中で、小さな人影の様なものが霧に包まれて現れ、何故か萬田氏はその人影に話しかかけるのだ、その話は、理不尽に思っていることや、不満、政治、思想、宗教、道徳、法律、等、日頃思っていても言えない事を訥々と話すのです。
その人影が合点すると、段々人影が大きくなり近くなります、
すると悪臭がしてきます、便臭です。
そこで萬田氏はこの人影を糞餓鬼と呼ぶようになったのです。
糞餓鬼は普通の人には影の様な存在で、捕まえる事は出来ませんが、一方の糞餓鬼は実存在で相手を殴ることも捕まえる事も出来ます。
この日はMHKの放送の在り方について萬田氏は話しました。
糞餓鬼は萬田氏の代理人として先方へ抗議に行くのです。

この日MHKの会議室では、会長出席の経営理事会が行われていました。
丸いテーブルを囲み7人の役員が会議をしていました。
ドスーンと会議室のドアを蹴破る音がしました。
大声を上げて、糞餓鬼が入ってきました。
ここが、嘘つきMHKの会議室か、嘘つき会長出てこい
会議室全体に便臭が、たち込めました。
アナウンサー経験のある女性の理事はハンカチを口にして窓際に逃げ、あまりの悪臭に嘔吐し始めました。
あなたは、誰ですか、警備を呼べ、110番だ、の声が乱れ飛んだ。
丸テーブルに仁王立ちになって
視聴者の一人、糞餓鬼だ。と言うと、次々に捲し立てた。
40年前石油が無くなると全国民を騙した、嘘報道したのはお前らだ。
オゾン層の破壊が地球温暖化の原因と嘘ついたな
軍艦島の強制労働の嘘放送を垂れ流してのはお前らか。
ちょっと待って、冷静に話しましょう、
と言った秘書の顔面に糞餓鬼はお尻に手をやり、次の瞬間、秘書の顔面に、糞便を、投げつけた。まともに顔面に軟便を受けた秘書は手で目の周りを拭き、そのまま前に倒れ込んだ。
職員たちは糞餓鬼を捕まえようとするが、影の様な存在の糞餓鬼は捕まえられない、
糞餓鬼はまた大声で吠えた。
MHKは全国民に、嘘をつきましたと、あやまれ。
糞餓鬼は机の下に隠れていた会長を見つけ机の上にあげ、馬乗りになり
会長の顔面に、お尻を向けて、ぶぶぶーと言う音と伴に、大量の糞便を浴びせた、たまたま開いた口に、糞便を浴びた会長は、悪臭にもんどりうって、
倒れ、慌てて秘書が抱きかかえた。
会議室は、悪臭と糞まみれになった。
糞餓鬼は再び仁王立ちとなり、
今日は、これぐらいにしてやる、嘘つくなよ。
と言うと、悪臭と、糞便を残して、すっーと、消えた。

翌日、萬田氏は夢で楽しみを知るのである。

おわり。











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