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短編小説 眠れない夜はスキ(1191文字)

僕は十代の頃から、虚弱体質ですぐ肩で浅く、はー、はー、と息をしてしまう影の薄い、生命反応の虚弱な身体を持った男だった。
いつも病院通いで学校もすぐに疲れてしまう体質ゆえに、小中高と半分近くを休み、お目こぼしで何とか進学して来ました。
運動の出来る人を恨み、嫌悪、毛嫌いしていました。
健康と言う文字も嫌いです。
明るく笑うことも無く、
常に静かで暗く自分の世界に閉じこもりがちな男でした。
友達は社交辞令的に、何人かいましたが、それ以上を語る友達はいませんでした。
これでは夢も希望も無い生活のようですが、
たった一つ僕がスキなのは朝なのです。
小学校の頃からだと思いますが、朧気に覚えているのは、
夜になり寝ると、このままフェイドアウトする様に静かに死んで終うのでは無いかと言う予想予感です。
心臓の弱いトク、トク、トクと言う心もとない音と共に恐怖の予想予感が、湧いてくるのです。
恐らく僕の死ぬ時は、布団の中で朝になったら静かに冷たくなっていた。
多分こんな死に方をするだと思います。
夜は大体布団に入り、懺悔します。
今日こんな事を思った、だれだれの悪口を言った。電車で疲れていて、目の前の老人に席を譲らなかった。次々と頭に浮かぶ悪行を悔いて祈ります。眠るとそのまま死ぬかもしれない、その恐怖から眠るのが怖いのです。
だから僕は眠れない夜がスキなのです。
眠れぬスキな時間を過ごしていて不覚にも眠り込んでしまい、
目覚めた朝は最高にスキです。
朝、目覚めて生きている、生きているのです。
嬉しい、ああ今日一日生きていられる、ありがとう、と思うのです。
何故か昼に死ぬことを考えた事はありません。
僕は確信しています寝ながら静かに死ぬのです。
ただ最近思い始めた事があります。
蠟燭の火は燃え尽きる前にぱっと明るくなります。
僕にとって、ぱっと明るくなるそれは何か、最近はずっと考えています。
つまり死の前に為すべき事。
悩んだ末に、考えついたのは、今のところ、
この世の物とは思えないほどの、おいしいプリンをつくること。
鼠小僧のように屋根から小判をばら撒くこと。
テロを起こす事。
スポーツに復讐する事。
警視総監賞を貰うぐらいの犯罪をくい止めること。
僕は承認欲求が強い方ではないのですが、
せめて、僕にとっての、何か善行をして死にたい。
僕にとって、ぱっと明るくなるそれは何か、
それが分かるまでは死ねないと最近思い始めました。


遠藤さん、遠藤さん、僕の肩を叩き呼びかける女の声がした。
看護師だ。
目覚めると、ベットの上で、僕は腕に包帯、首にも包帯。
ここは病院だ。
看護師が言った。
遠藤さん、刑事さんが、訊きたいことが、あるんですって
僕は錯乱した。
何も分からない。
どうやら、ぱっと明るくなる何かは、有ったようだ。
咄嗟に、僕は願うように言った。
僕は眠ってフェイドアウトするように静かに死ぬんだ。
                            おわり





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