渡良瀬 遥

1957年生まれです。34年間、ずっと会社員していました。でも、その間も何か自分を表現…

渡良瀬 遥

1957年生まれです。34年間、ずっと会社員していました。でも、その間も何か自分を表現できるものはないか、と考えていました。今回、noteを見つけて、嬉々として物語を書き連ねています。すでに老境に差し掛かっていますが、生きた証に今後も発表してゆきたいと思っています。

マガジン

  • 嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞シリーズ

    藤原定家の小倉百人一首の和歌を原作にして、自由気ままに読み下してシリーズ化したものです。前日譚から後日譚まで合計102話になる予定です。

  • 気ままな写真集

    街中にある面白い物達の写真を短い語りを加えて集めてゆきたいと思っています。

  • 渡良瀬 遥のSTORIES MUST GO  ON

    投稿した物語を集めています。息苦しい世の中ですが、このマガジンの中だけは温かい優しい人々の幸せな世界を描いてゆきたいと思っています。ご興味のある方はよろしくどうぞ。

最近の記事

《Eine kleine Nachtmusic》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十九の歌~

《Eine kleine Nachtmusic》原作:赤染衛門 今夜、行くよ……、なんて、嘘。 いつまでも待ってるわ……、なんて、嘘。 嘘と嘘を掛けあわせれば、月の障りが嬉しい。 純白のシーツを女の経血で染め上げて 貴方を呪ってみたい。 <承前六十八の歌> 几帳の奥で式子は後じさった。 「怖い……、嫌です、定家様」 式子は胸を隠し、太腿を閉じて横を向いた。灯明から沈香の匂いがこぼれる。式子の裸体はほの暗い明かりの中でゆらゆらと揺れた。 定家は式子の言葉に驚く。 「怖がら

    • 《YINA》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十八の歌~

      《YINA》原作:大弐三位 風が吹けば、ウチの心は笹原のようにざわめく。 それは貴方の呼ぶ声が聞こえる時。YINA,YINA……と。 ウチは風の中から思い出を両手ですくい上げ水晶のようなそれをみつめる。 けど、瞬きのうちに、それは朽ち果てて、冷めた時の盗人に奪われてしもた。 YINA、それは悲しみにくれる女の名前。 <承前> 几帳脇に置かれた麻の布巻を見ると式子は濡れた紅袴の緒をほどき、静かに脱ぎ捨てる。そして、白小袖を身体からさらりと滑らせた。灯明の明かりが几帳の向こうに式

      • 《なんや、なんやて!?》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十七の歌

        《なんや、なんやて!?》原作:紫式部 式部はんのこと、どう思うかて? あの方は才女、才媛さかいなぁ……。 お逢いすると気持ちが、ピーンと張るんや。 せやさかい、すぐに逃げ出したくなる。 けどな……、エエとこもあって、特にあそこは……、 こちらのあそこがピーンとしとるから……、 ……まっ、やめとこ! <承前> 濡れそぼった直衣から水をしたたらせながら定家は両腕に抱いた式子を見遣った。 「式子様、貴女の禊ぎは終わられました。御身は清浄な気に満たされております」 定家はそう呟き、

        • 《この世のほかの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十六の歌

          《この世のほかの》原作:和泉式部 「Ki~nnto~(公任)」 ……あかん、ウチもう黄泉帰りしそうや あんたはもてるさかい、今もどこかできれいな娘と一緒やろな……。 彼岸でも、もう二度と会えんでもええから 明日のウチの命日には必ず来てな、Ki~nnto~。 <承前>   定家は式子を抱きかかえたまま池から出て、庭の玉石を踏んだ。しずく がポタポタと定家の夏の直衣からしたたり落ちた。塗れて肌に張り付いた衣を透かして式子の白桃色の乳房を月明かりが照らす。乳首が固く凝って衣を

        《Eine kleine Nachtmusic》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十九の歌~

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        • 嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞シリーズ
          60本
        • 気ままな写真集
          8本
        • 渡良瀬 遥のSTORIES MUST GO  ON
          10本

        記事

          《昔の名前で出ています》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十五の歌

          《昔の名前で出ています》原作:大納言公任 どないや? 久しゅう音沙汰、聞かんけど元気しとんか? ワシのほうはボチボチや。 相変わらず大阪の街はいずりまわってカスぎょうさん集めて暮らしとるがな。 うだつはあがらんなぁ。 ま、昔の名前で出てるさかい、いっぺん遊びにきいや。 うまい酒、一緒に呑もや。 (注)うだつはあがらん=地位・生活などがよくならない。ぱっとしない。 <承前> 定家の腕の中で震えていた式子は、ふと預けていた身体を離し涙ながらに告げた。 「定家様、式子は身も心

          《昔の名前で出ています》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十五の歌

          《今日を限りの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十四の歌 

          《今日を限りの》 原作:儀同三司母 陽炎、湧き立つ、その儚い陽盛り 命の限り鳴く蝉の短き夏の激しさ。 花火は夜の静寂の深さに驚き 浴衣の袖を透かして消えた。 うちのこと、好きや、と言ってくれた貴方の嘘に、おおきに。 その時、うちはほんまに幸せやった。 <承前>  地面に蹲り動きを止めた式子に舞い踊っていた黒髪が落ちてきた。狂乱の舞踏は終わったのだ。定家は階を降りて式子に向かって走った。すると、式子は立ち上がり両手を差し伸ばす。それは定家を迎え入れようとする式子の懇願の姿

          《今日を限りの》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十四の歌 

          《天命記Ⅴ》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十三の歌 

          《天命記Ⅴ》 原作:右大将道綱母 人妻のウチをこないに嘆かせるアンタは罪な男(ひと)や。 隣に寝てるこの子かて、ほんまはアンタの……。 夫は今夜もいない。アンタをひたすら想う。 左の乳房を揉みしだき、凝った乳首をねじり絞れば 女の肉(み)の熟れて張りつめた身体に 痙攣がはしる。 ……夜明けまでは、まだ、永い……。 <承前>  定家が色紙を手にして膝行して式子ににじり寄ろうとすると、式子は突然、スッと立ち上がり、定家の手から色紙を取り上げた。そして、定家の耳元に紅をひいた唇を

          《天命記Ⅴ》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十三の歌 

          《潮騒》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十二の歌~

          《潮騒》原作:藤原道信朝臣 寝ても覚めても、明けても暮れても アンタのことばかり……。 須磨の浜辺で一人想う。 「お姉ちゃん、泣いとんの?」見知らぬ男の子が覗き込む。 「ううん、泣いてへん。なんでもあらへん」 ウチは立ち上がって朝靄の海峡を見やった。 ……夏の海、笑顔は似合わへん。 <以下、物語> 式子「明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな。夜が明ければやがて必ず日が暮れる。それと同じ。あなたに会える日のあまりの嬉しさに心舞い踊る。でも、不意に

          《潮騒》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十二の歌~

          《燃ゆる思ひを》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十一の歌

          《燃ゆる思ひを》 原作:藤原実方朝臣 ♪六甲おろしに、さっそうとー♪ 「おっ、六甲おろしや。今日は勝ちやな。」 「いけ~! 球児! 三振とったれ! こら! クソ巨人、おまえらがナンボのもんじゃ!」 「……すっごい応援やな~。わいらもいっちょいくか! それ! あと一球、あと一球!」 ーーまゆみちゃん、愛しとるで! 今やからほんとの事言うわ!! 俺、愛しとんで! ほんまやで!!!ーー 「なんや気のせいかドサクサにまぎれて、今へんな応援聞こえんかったか?」 *2010年当時の阪神タ

          《燃ゆる思ひを》~嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十一の歌

          《まっ、エエか。あいつにツケといて》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十の歌~

          《まっ、エエか。あいつにツケといて》原作:藤原義孝 「わぁ~、どないしょ?!」 「なんや、どないしたんや?」 「あの娘から、つきおうてもええってメール来たがな! わぁ~い! もう、死ぬなんてでけへんで!」 「えっ! おい、どこ行くんや? あかんがな、かってにお店飛び出したら! 勘定まだやで!」 「この店、高いんやで。誰がアイソすんね!? 難儀なやっちゃな、死ぬ言うてみたり、死なれん言うたり……、まっええか、女将さん、勘定はあいつにツケといて」  (注)アイソ=支払いのこと。ツ

          《まっ、エエか。あいつにツケといて》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十の歌~

          《好かんタコ!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十九の歌~

          《好かんタコ!》 原作:大中臣能宣朝臣 点いたり、消えたりしてるウチの心 タコ焼きの青ノリつけたままヘラヘラ笑ってるアンタはアホや。 この前もナンパされたのに知らん顔やったやないの……。 ウチのこと、どない想うてんの? 少しはかっこようウチを守って! (注)好かんタコ(亰言葉)=気に入らない時に相手に言う言葉。 定家「みかき守衛士のたく火の 夜はもえ 昼は消えつつ 物をこそ思へ。さてこそあらめ」 蓮生「みかき守たちのたく篝火。その篝火の炎が、夜は赤々と燃え上がり、昼間は魂も

          《好かんタコ!》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十九の歌~

          《南風を悼む》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十八の歌~

          《南風を悼む》 原作:源重之 南風、天保山沖 うちは一人乗りのヨットを操る 夕暮れの大阪は灯ともし頃  「きれいやなぁ.……」 左舷に打ち寄す波はくだけて消えた ーーSHIGEYUKI、なんであないに急いで一人死ぬんよーー うち、今、泣いてもええか? (注)天保山=大阪市港区、安治川(あじがわ)河口の小丘。あないに=あんなに 定家「風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふ頃かな。砕ける波、砕ける心」 蓮生「風激しく、岩にうつ波がくだけ散る。哀しくなった恋の思いも

          《南風を悼む》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十八の歌~

          《Sorrow‐さびしさは》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十七の歌~

          《Sorrow‐さびしさは》原作:恵慶法師 八重ちゃんと行った武田尾のお宿 草ぼうぼうの田舎の湯 つい今しがたまで愛し合うた名残の月 行き交いの頃、二人溶けるほど一緒やったのに どないしてあんなにさびしかったんやろ? (注)武田尾=JR福知山線沿いの温泉地。宝塚の近郊。行き交いの頃=夏から秋に移る頃合い。 定家「八重葎 しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね  秋は来にけり。別れてしまった貴女とはもう逢うこともない。その寂しさのただ中、季節だけは約束を交わした恋人のように戻

          《Sorrow‐さびしさは》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十七の歌~

          《水女門(みなと)≫嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十六の歌~

          《水女門(みなと)≫ 原作:曽禰好忠 「うちはあんたのもんや!」 俺のほとばしる愛を深く受け入れた刹那、 叫び上げ、身体を痙攣させたおまえ。 今は誰とも知らない男と暮らすおまえ。 春の午後、人里はなれた由良の湖の青い木陰の水辺、 舵を横たえた箱舟の中で 俺達は行方も知らない愛を貪った。 湧き立つ記憶は陽炎。眉間に、喘ぐおまえが揺らめく。 定家「由良の門を 渡る舟人 かぢをたえ  ゆくへも知らぬ 恋の道か な。流され、揺られ、浮き沈み、恋は迷い続ける」 蓮生「由良の瀬戸

          《水女門(みなと)≫嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十六の歌~

          《愛と情やで!≫ 嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十五の歌~

          《愛と情やで!≫ 原作:謙徳公 姫はもうあいつに「会われへん」から「哀れ」なんやろ? せやさかい今は「哀れな身の上」やし「憐れみ」が要るな。 <アホ! しゃれとちゃうで……。ほんまにうち、もうあかんねん> わかってる、わかってる。このなぞなぞ解けたら、俺が嘆きの姫にあげたいもん分かるわ。ええか、ほんならゆくで。憐れみの前と後ろにあるものな~んだ? 定家「あはれともいふべき人は 思ほえで  身のいたづらに なりぬべきか  な。身のいたづらに……、むなしく死んでしまうにちがいな

          《愛と情やで!≫ 嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十五の歌~

          死に蛍 嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十四の歌~

          《死に蛍≫ 原作:中納言朝忠 おまえのいない夜。身体がわめく。 闇の中、おまえを求めて気が狂う。 ……蛍舞う夜、痴態のかぎりに愛し合うたんは夢やない. せやのに、何処に行ってしもうたんや。 定家「あふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし。今はもう愛は届かないと、消えた蛍が告げる」 蓮生「逢う度にあさましい程愛し合った。その愛の頂きから今、何故、突然、姿を晦ましたのか? 心に活け込まれた不滅の愛ゆえに恨む、蛍となった貴女のその理不尽を」 定家「愛憎は

          死に蛍 嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十四の歌~