《YINA》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~五十八の歌~
《YINA》原作:大弐三位
風が吹けば、ウチの心は笹原のようにざわめく。
それは貴方の呼ぶ声が聞こえる時。YINA,YINA……と。
ウチは風の中から思い出を両手ですくい上げ水晶のようなそれをみつめる。
けど、瞬きのうちに、それは朽ち果てて、冷めた時の盗人に奪われてしもた。
YINA、それは悲しみにくれる女の名前。
<承前>
几帳脇に置かれた麻の布巻を見ると式子は濡れた紅袴の緒をほどき、静かに脱ぎ捨てる。そして、白小袖を身体からさらりと滑らせた。灯明の明かりが几帳の向こうに式