《断絶》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~九十三の歌~
《断絶》原作:鎌倉右大臣
「世の中に変わらんもんなんてあらへん」
おまえはタバコの煙をフーッと吐いて言う。
「オレの愛もか?」
「アンタの愛? 愛やて!?」
今度はあきれるほどの大声で笑いころげる。
夏の海。渚には漁師の小舟がもやい綱を手枕にうとうととたゆたっている。
気怠い午後に俺たちの愛は鈍く色褪せ衰えて、耐えきれないほど眠い。
<承前九十二の歌>
式子の白桃色をした臀部に定家は唇を移した。腰回りから深い谷間を形作る割れ目の端にいたる双丘を舌で吸い尽くす。式子の手が定家を求めて宙を彷徨った。
鼻にかかった泣くような小声で式子は定家を呼ぶ。
「定家様、定家様……。世の中は 常にもがもな 渚こぐ あまの小舟の 綱手かなしも……」
空を切る式子の腕が悦びの大波に舞う小舟の櫂のように揺れ動き、式子の心をつなぎ留めていたもやいがほどかれ、その艶めかしい姿態を狂乱の海に任せてゆく。
<後続九十四の歌>