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《むかし、男ありけり》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~九十一の歌~

むかし、男ありけり》原作:後京極摂政前太政大臣
「ひとり寝はかなしいなぁ~」
縁の欠けた杯を置いて一人せんべい布団に横になる
「今はもう、おまえのイビキさえ恋しいわ」
瞼を閉じると裏庭で鳴くキリギリスが慰めてくれる。
泣いてもエエのやでって。
「……ほんなら、キリギリスはん、あんたにあまえて少し泣こうか、今夜は。」

<承前九十の歌>
押し上げられた腕の柔らかな肌に定家の唇と舌が触れる。唇が脇の下の窪みに式子の淡い汗の匂いを嗅ぎ、舌がそれを吸い取る。式子は深い吐息を漏らした。
定家は続いて白い二の腕に舌を密着させる。吸い付けた後には桃色の痣のような跡が残った。
「うぅ、定家様、もっと優しく……」
式子が囁く。
「…………」
式子の哀願に応えもせず、定家は白い指先を己が口に含んでひたすらに弄ぶ。
……きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに衣かたしき ひとりかも寝む……。
式子は定家の顔を左手で愛撫しつつ、敷いていた内衣の袖を右手で引きちぎった。身の内に沸き上がる快感の迸りをおさえきれなくなったのだった。
定家は式子の両腕を満足のゆくまで嘗め回すと式子のうなじから首筋へと
唇を押し当てた。
<後続九十二の歌> 


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