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《寂しさは》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~八十七の歌~

《寂しさは》原作:寂蓮法師
牧に湧き立つ霧に白馬が溶けてゆく。
その姿は村雨が草地に残した露のように儚い。
一人、叢林を背にして立てば、寒く湿った心を惑わす秋、その夕暮れ。

<承前八十六の歌>
ゆっくりと定家は組み敷いた式子の髪の生え際を右手でまさぐり、
濡れた唇を奪った。二人は互いの舌を絡め合い、唾液を交して、それを
飲み下した。
式子の息が上がる。頤がのびて、艶めかしい吐息が漏れた。定家は
唇を式子の白い耳裏に這わせ、赤く染まるほど強く吸い続けた。
そこは式子の性を弄る官能の壺であった。
「さ、定家様。式子はもう、もう……」
式子は目を閉じたままうわ言のように愛欲へ登らんとする悦びの声を漏らした。
愛される嬉しさに涙が頬を伝う。
「村雨の 露もまだひぬ まきの葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ。涙の露に濡れそぼれ、お身からは眩しい程の心の湧き立ちが霧のように立ち上っておられる」
「寂しい秋となれども、今が悦びで満たされるのなら、式子は嬉しゅうございます」
「式子様!」
「式子とお呼び下さいませ」
「式子。参る!」
定家は挑む。
<後続八十八の歌>

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