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古本屋になりたい

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本や読書にまつわるあれこれ
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2023年11月の記事一覧

古本屋になりたい:46 井上靖「星と祭」

古本屋になりたい:46 井上靖「星と祭」

 今の中学生も、国語の授業で井上靖の「しろばんば」を読むのだろうか。

 小学校の国語の教科書に載っていたのは、それだけで完結している短い物語ばかりだったのに、中学校に入ると、長さのある小説の一部が抜粋されたものが教科書に掲載されていた。
 そのことに驚くと同時に、続きが気になるという体験も初めてしたように思う。

 教科書の中の「しろばんば」は、冒頭の数ページだけだ。
 子どもたちが、夕方、しろ

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古本屋になりたい:45 高野文子「るきさん」

古本屋になりたい:45 高野文子「るきさん」

 一時期、ごく親しい人へのお見舞いやお餞別として、薄い文庫本に自分で縫ったブックカバーをかけたものを渡していたことがあった。
 ブックカバーは、手芸用品店に行く度に買い集めていた端切れとチロリアンテープの組み合わせで、相手のイメージに合わせた。誰かに女子力高ーい、などと言われて、うるせえ、とお腹では思いながらもへらへら受け流していた。

 中の本は大体決まっていた。
 一度、転職する恋愛体質の同僚

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古本屋になりたい:44「エルマーのぼうけん」

古本屋になりたい:44「エルマーのぼうけん」

 幼稚園や小学校の秋の遠足は、たいていみかん狩りだった。
 子どもの足で歩いていける距離に、みかん山がいくつもある。みかん山はみかん農家の果樹園であり、観光農園を兼ねているところもある。

 思い返すと、幼稚園に上がる前から、家族や、他の市から遊びに来たいとこたちや、近所の同年代の子どもたちと、何度もみかん狩りに行っていた。
 みかん山は傾斜のきついところが多いから、はしゃぎ回ると危ない。こけて、

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