記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

イニシェリン島の精霊 【映画感想】

もう許したげてよ〜という展開が続く今作。
イニシェリン島とは架空の名前だが1923年の内戦が続くアイルランドの孤島という設定。
2人の男性を中心にして話は進むが、どちらの気持ちも分かる気もするし、
でもその極端過ぎる行動はどうなの?とも思う109分。

「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督の最新作。
アカデミー賞の主要部門にノミネート、またフランシス・マクドーマンドが主演女優、サム・ロックウェルが助演男優賞を受賞した「スリー・ビルボード」は今見返すと隙のない作品で、改めて感服してしまった。
犯人は分からず、この怒りは何処へ持っていったら良いのかという終盤からの「あんまり、、」、「道々決めればいい」というセリフのやり取りに改めてやられてしまった。そしてこの作品が2時間なく115分だったという事にも。

イングランド出身のマーティン・マクドナー監督は劇作家としてデビューし、
イギリスで最も権威があると言われる、ローレンス・オリヴィエ賞を3度も受賞している。2004年には映画界に進出。短編「シックス・シューター」を監督し、40分以下の作品に与えられるアカデミー短編映画賞を受賞。初監督で。
恥ずかしながら、勉強不足で2017年の「スリー・ビルボード」からこのマクドナー監督を知ったのですが、最初からもの凄い方だったという事がわかります。
続く監督2作目「ヒットマンズ・レクイエム」でもアカデミー賞脚本賞にノミネート。これもめちゃめちゃ面白いし、音楽も劇伴もいい。
この「ヒットマンズ・レクイエム」から最新作まで音楽を担当するのはコーエン兄弟のほぼ全ての作品とスパイク・ジョーンズ作品群や「キャロル」等を手掛けたカーター・バーウェル。今作では耳に残る、それでいて美しい楽曲が印象的。

続く3作目「セブン・サイコパス」は英国アカデミー賞ノミネート等、引き続き評価の高い作品ではあるが、マクドナー監督作の中ではコメディ色の高い作品だと言える。監督が好きだという北野武監督作にも少し近いし、タランティーノ風味も少々。また今作から「キック・アス」や数々のMCU作品を手掛るベン・デイヴィスが撮影として加わる。賛否両論あるが「エターナルズ」での印象的なショット
、また「スリー・ビルボード」〜「イニシェリン島の精霊」での撮影はマクドナー作品を何段階も上のレベルに引き上げたと思う。
マーティン・マクドナー監督の経歴は惚れ惚れするほど見事だが、音楽、撮影も含めて、調べれば調べるほど隙のない布陣で固められている。

今作「イニシェリン島の精霊」はある日突然、楽しい毎日が破壊されたらどうなるのかという所から着想し、物語を作っていったという。
前作「スリー・ビルボード」はどんな悲惨な事があっても赦すことの尊さを、残酷にも切り取った作品であったように私は思う。しかし今作は一見そのまま平行線のようにも思える終わり方をする。
ケンカになった時、どう他者を受け入れるか、受け入れないとしてもどう折り合いを付け生きていくか、その答えの出ない問いを中年〜高齢男性二人を通して描いていく。
ミニマムな物語から、現在の様々な問題を想像させ、色々と考え込んでしまう。
それなのに今作から受ける印象は全く暗いものではなくて、二人のやりとりや、島人とのやりとりは笑えて時には軽快ですらある。

Carter Burwell - Colm Takes the Reins

この素晴らしい劇伴と数々の方が言及する素晴らしい撮影。
主人公パードリックが妹にダメだと言われていながら、動物たちを部屋に入れるシーンがとても印象に残る。是非見て頂きたい。

このアカデミー無冠ながら見逃せない傑作は3月29日からディズニープラスで配信開始だそう。
1月27日公開だったので、約2ヶ月。
ディズニー~20世紀スタジオ系の映画は配信早いですね、、。
次にこの監督チームはどんな映画を撮るんだろう。本当に楽しみ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?