第三話 世界《セカイ》 ◆(目を覚ました伊吹の視界)真っ白な天井 伊吹(あー……保健室の臭い) 伊吹はそろそろと首を動かし、室内を見回す。 窓には厚手の白いカーテン。 家具は伊吹が寝ているベッドとサイドテーブル。ベッドの脇にはパイプ椅子が三脚。 そのうちの一脚に、黒いショートジャケットに黒いパンツ姿の黒髪の男が、鞘に収まった刀を支えにして眠っていた。 伊吹(誰っ? 刀、本物?) おそるおそる起き上がると、パチッ、と小さな泡が弾けるような音がした。 すぐに
第二話 邂逅《カイコウ》 少女「怪我はない?」 伊吹はよろめきながら立ち上がった。 伊吹「……あ、あの! 助けてくれてありがとう。大丈夫……たぶん……」 少女「良かった」 ふわり、と少女が微笑む。 少女にぴったりと寄り添っている少年は無表情だ。 伊吹「今の何?」 少年「ああいうの、今まで視たことないのか?」 伊吹「ない」 伊吹が即答すると、少年と少女は顔を見合わせた。 少年「どう思う?」 少女「今の時期の夕方だから、瘴気に充てられたんだと思う、けど」
高校から帰宅途中だった北川伊吹は、白い着物姿の子供と謎の声によって、《怪異》と呼ばれる異形の存在がいる《似て非なる世界》に引きずり込まれてしまう。 伊吹は、伊吹と同じ世界から来た女性の孫娘、陵六花と出会う。 六花の存在により、元の世界に戻ることは不可能に近いと知った伊吹は新たな生活を始める。 そんな伊吹の前に、元の世界で行方不明になっていた幼馴染みの藤野みちるが現れる。 再会もつかの間、白い着物姿の子供によってみちるは連れ去られてしまう。 みちるを助け、二人で元の
斎藤遊麻が望んでいたのは、普通の生活だった。 ある日、具合が悪そうな男を助けようとした遊麻は、天神様が君臨する人間と天狗と狐と鬼の、四つ巴の世界に引きずり込まれる。 助けてくれた遊郭《翠天樓》で、天神様によって世界に引きずり込まれた者は《稀客》と呼ばれ、《天与》という力を与えられる、ということを知る。 遊麻と同じ稀客の少年、凪によって四つ巴の世界の均衡は崩れかけていた。 《冬》の天与を持った遊麻は、世界の戦いに巻き込まれていく。 凪に勝ち、世界は元に戻り始めた。
歳も違わない。 同じ稀客なのに狐より、鬼より、ずっと怖い。本能が、彼に気を許すな、警戒しろと訴えてくる。 「嘉一、その場で待機と皆に伝えてきておくれ。――ようこそおいでくださいました、と言いたいところではありますが、大門の開く時間ではございません。お引き取りを」 「客になりにきたわけじゃない。遊麻君に挨拶に来たんだよ。それと勧誘」 「どうして、名前……」 「僕は顔が広いんだ。でさ、ここの雑用係よりもっと楽しくて、誰かの役に立つことをしない?」 「何が顔が広いだ。どうせ狐
芳しい香りが鼻をくすぐる。 遊麻は一瞬で高級旅館の玄関のような場所に移動していた。 (……どういうこと?) たぶん、木札のせいだろう、ということしか分からない。 が、きっとこれもここではありなのだろう。遊麻の前に立つ二人の男性は、突然人が現れても驚いていない。 「いらっしゃいませ」 笑顔の中にわずかな警戒を含ませながらも、頭を下げた。 丸顔の男性は三十代後半ほど、目元に黒子がある男性は二十歳ほど。二人とも紺色の着物に、翡翠色の羽織を重ねている。 「お札を
ついさっき、時間にすれば二、三分ほど前。 斎藤遊麻は二〇二三年七月の東京都内にある、人気のない住宅街にいた、はずだった。 「ここ……どこ?」 目の前には、活気溢れる見知らぬ街並みが広がっている。 チンチンチン、と軽やかな音を立てて、鶯色とクリーム色の路面電車が走っていく。 車やバスも、遊麻が知るものより小さく、いわるゆクラッシックカーと呼ばれるものばかりだ。さらに、馬車が走っている。 行き交う人々の大半は、着物や袴などの和装姿。スーツやワンピースの洋装の人もい
キャッチコピー: この世界の《正しい運命》から抜け出すために、私達は抗う道を選ぶ あらすじ: 神託により【救国の聖女】を召喚しなければならなくなった、エシャトリス国唯一の魔術師エティカ。 古い魔術書を調べていたが、なぜか悪魔スウォードを召喚してしまう。 悪魔の召喚は大罪。エティカは他国から招かれている魔術師キリヤとともに、危機を免れようと画策する。 実はエティカは悪魔と聖女を召喚し、世界を滅ぼす魔女になる運命に位置付けられていた。 そしてキリヤは《エティカが魔女に