「聖女を召喚しろと言われましても」企画書

キャッチコピー:
この世界の《正しい運命》から抜け出すために、私達は抗う道を選ぶ

あらすじ:
 神託により【救国の聖女】を召喚しなければならなくなった、エシャトリス国唯一の魔術師エティカ。
 古い魔術書を調べていたが、なぜか悪魔スウォードを召喚してしまう。
 悪魔の召喚は大罪。エティカは他国から招かれている魔術師キリヤとともに、危機を免れようと画策する。
 実はエティカは悪魔と聖女を召喚し、世界を滅ぼす魔女になる運命に位置付けられていた。
 そしてキリヤは《エティカが魔女になり、聖女が世界を救う正しい運命》を見届けるために、転生を繰り返していた。
 しかし今回、エティカは自分の運命を思い出す。
 自分達を運命から解放するため、エティカは運命に立ち向かっていく。
 そして秘匿された真実に辿り着く。

第1話ストーリー:
《黒き虹が空にかかり、滅びの時が訪れる。異世界より救国の聖女を招き、この地に清浄と新たなる祝福を求めよ》
 新年の始まりであり、エシャトリス国建国記念の祭祀で神託はそう告げた。
 王命により、【救国の聖女】の召喚の備えをすることになったエシャトリス国の魔術師たち。
 しかし魔術師は二人しかいないうえ、魔術師長が高齢と、突然罹った謎の病気を口実に退身してしまう。
 それにより十七歳の少女エティカ・グレイディアはエシャトリス国唯一の魔術師となってしまった。
 聖女召喚はエシャトリス国だけに存在する秘術だが、聖女召喚が行われたのは、五百年以上前。
 さらに、二年前の国王が魔術師を迫害したため、エシャトリス国には魔術書も、魔術師に関わる資料もほとんど残されていない。
 数少ない魔術書を調べ、召喚陣の試作を書いていたエティカは、たまたま解けた母の形見のリボンと髪の毛一本を対価に悪魔スウォードを召喚し、主人になってしまう。
 悪魔召喚は試みただけで、財産没収のうえ三等親までが火刑、成功すれば七等親まで火刑という大罪。
 願いを問うスウォードに、エティカは「今すぐ還って下さい」とスウォードに願う。
 しかし「願いを叶えたら還るので、それは願いにはならない」と断られてしまう。
 なんとかスウォードの存在を隠そうとするが、隣国シェルグランから招いている魔術師キリヤ・レーヴァルラインにあっさり見抜かれてしまう。
 エティカとキリヤは利害の一致――魔術師の名門家出身のキリヤは閨閥結婚から逃げるため、エティカは魔術師の特権目当ての求婚を断るため――により偽装婚約していた。
 スウォードが、その発想が分からないと呆れるなか、エティカはキリヤにも類が及ぶことを避けるため、今すぐ婚約破棄しようと申し出る。
 しかしキリヤは周囲に怪しまれる、と断る。
 そのうえで、スウォードには自分の縁者として生活して貰う。そして聖女召喚の準備を進めるふりをして、滅びが何かを調べる。
 そしてスウォードに救国の聖女に化けて貰い、解決したことにすればいい、と提案する。
 キリヤの計画に乗ったエティカを見て、スウォードは悪魔よりもずる賢い、とふたたび呆れる。

第2話以降のストーリー:
 スウォードはキリヤの従弟で、助手として滞在することになった。
 数日後、聖女召喚の神託に伴い、エティカは中央神殿と魔術院の監査を受けることになってしまう。
 スウォードの存在により、周辺の魔力は乱れてしまっている。それらを隠すため、キリヤが新作の魔術の実験で大失敗し、周辺の魔力の濃度がおかしくなった、と誤魔化して監査を乗り切る。
 安堵した三人だったが、神殿から監査役として神官ジャックが派遣されてくる。
 スウォードは、ジャックは目付きが怪しいから絶対に二人きりになるなと、エティカに警告する。
 しかし偶然が重なり二人きりになってしまう。
 そこでジャックは、先祖はグレイディア家に仕えていた魔術師だったこと、エシャトリスの魔術師迫害の際には、家族を連れ隣国シグランに逃げたことを打ち明ける。
 ジャックは先祖の背信を謝罪したうえで、今後はエティカに仕えさせて下さい、とひざまずく。
 エティカは家の話は昔のことで、大事なのは現在いまと未来だとして、「私達は友達になりましょう」と笑いかける。
 ジャックはこの王城のどこかに、魔術師が隠した書庫があると教え、二人で探さないかと持ちかける。
 エティカはこの国の問題に、キリヤとスウォードをこれ以上巻き込むわけにもいかない、と二人には黙っていることにした。
 王城内を探していた二人は、大広間に飾られている初代国王の石像の台座の隅に、謎の文字が彫られているのを見つける。
 それは書庫の入り口と、入り方を示したものだった。
 辿り着いた書庫には、焚書になったはずの大量の魔術書が収められていた。その中には、五百年前の聖女召喚の記録も含まれていた。
 その頃、スウォードはキリヤに言動すべてのタイミングが良すぎる、と問い詰めていた。
 キリヤは、自分は運命が正しく運行しているかを確認するための見届人として、世界に雇われている、と語り始める
 エティカの魂には、七十二の悪魔を従え世界を滅ぼそうとした災厄の魔女クレイメリアの魂の一部が組み込まれている。
 エティカが、《悪魔スウォードを召喚したことをきっかけに黒き虹がかかる。そして聖女を召喚する。その直後、クレイメリアの魂が目覚め災厄の魔女となり、聖女によって滅ぼされる》という運命に位置づけられていた。
 それを見届けるためにキリヤは、これまでのすべての記憶を有したまま転生を繰り返していた。
 人間のみならず、悪魔であるスウォードすら運命の輪の中にある、と冷めた口調で語るキリヤにスウォードは激怒する。
 キリヤはスウォードに謝りながら、この話に関するスウォードの記憶を消してしまう。
 一方、エティカは今までの人生では思い出さなかった、自分の運命を思い出し始めていた。
 この運命から抜け出す。
 そう決めたエティカは、聖女召喚とその後について関して調べ始める。
 エティカがこれまでとは違う動きを始めたことで、少しずつ変化が生じるようになった。
 キリヤは見届人として正しい運命になるよう調整しなければならない。しかし、エティカが運命から解放されることを望む自分にも気づき、その二つの間で苦悩する。
 スウォードとジャックはキリヤの様子がおかしいことを不審に思い、一人で抱え込むなとキリヤを叱責する。
 キリヤは三人に自分の知るすべてを打ち明け、謝罪。そして改めてエティカに求婚する。
 男性三人の間で一悶着起きたものの、これからは抜け駆けなし、四人で協力しようと約束する。
 隠された書庫の最奥で、もう一つの部屋を見つける。
 古代の石碑や石板が保管されていたその部屋には、魔術師であり歴史研究者だったレオニールがいた。
 エティカにクレイメリアの魂が埋め込まれていることを知ったレオニールは、この世界に施されている魔術について説明する。
 魔術とは、悪魔が持つ魔素が魔界から人間界に漏れ出し、人の持つ魔力と共鳴して成立する。
 そのため、太古の魔素はごく微量なものだった。
 ある日、クレイメリアという少女が人類で始めて悪魔を召喚する。悪魔が人間界に滞在することで、人間界の魔素の量は飛躍的に増えた。
 しかし、悪魔が魔界に還れば魔素は元の量に戻ってしまう。
 そこである国の国王と魔術師達は、クレイメリアの魂と悪魔を封じることにした。
 しかし、無限ではない人間の魂は摩耗し、消滅してしまう。
 それを防ぐため、クレイメリアの魂の一部を他の人間の魂に組み込み、クレイメリアの魂が摩耗し始めた時に、代わりとして転生してくるようにした。
 そしてクレイメリアは《災厄の魔女》として悪魔とともに世界の片隅に封じられた。
 聖女召喚の儀式とはクレイメリアの魂を埋め込まれ人物と、悪魔を世界の片隅に封じるためのものだった。
 異世界から招く聖女は最初から存在せず、見届人であるキリヤですら、聖女に関して偽りの記憶を植え付けられていた。
 そしてレオニール達エシャトリス国の魔術師がそのことを知ったために、魔術師迫害が起こった。
 話が終わった直後、職務放棄をしたと世界に見做されたキリヤが消滅してしまう。
 慌てて戻ると、空には黒い虹がかかって昇っていた。
 ジャックは捕らえられ、エティカは過去の魔術師達の亡霊に取り憑かれた国王に、家族を人質に取られてしまう。
 聖女を召喚するように迫られたエティカは、クレイメリアを召喚するという賭けに出る。
 召喚には成功したが、クレイメリアは悪魔と融合し、自我を失っていた。
 エティカは憎しみに囚われ、世界を滅ぼそうとするクレイメリアを抱きしめ「あなたは自由です」と語りかける。
 自由になったクレイメリアはエティカに感謝し、天に昇っていった。
 エティカはスウォードに、「キリヤのいるところに連れて行って」と願う。
 しかしそこで待ち構えていたのは、クレイメリアと悪魔を封じ込めた国王だった。
 国王は、キリヤは国王の魂の一部を使って作られた分身であり、自分を倒せばキリヤも消えると明かす。
「己の解放のために世界を滅ぼすつもりか」
 そう言われ、心が折れかけたエティカに「お前は一人じゃない」とスウォードが現れる。
「スウォードも私もあなたのための道具じゃない」
と、エティカは世界を変えるために、国王に立ち向かう。
 しかし、エティカを作ったとも言える国王には、エティカの魔術がまったく通用しない。
 スウォードを抑えられ、絶体絶命となったその時、キリヤが助けに入る。
 国王を倒したエティカの前にクレイメリアが召喚した悪魔が現れ、お礼だと魔界との間に少しだけ穴を開け、さらに国王とともに消滅したはずのキリヤを呼び戻した。
 スウォードは長生きしろよ、と言い残し魔界に還っていった。
 自由になったエティカはキリヤとともに、皆の元へと帰った。