ドイツ人の親友Mr.Jとの思い出 2 / お客様と食事をする時はソーセージを注文してはいけない

僕はJとオフィスを出て歩き始めた。

「ユウキ、ランチで食べたい物はあるか?」
「ソーセージが食べたい。」
「ソーセージか、いいだろう、ついて来い。」

Jは肉屋の前で立ち止まった。その店にはいろんな肉が売っていたが、いろんな種類のソーセージも並んでいた。

「俺はこの店のソーセージが、シュツットガルトで1番旨いと思う。」
「ソーセージを買って帰って食べるのか?」
「店の奥をよく見てみろ、レストランになっているだろう。」

店の奥のレストランに入ると、中年の女性がテーブルまで案内してくれた。
Jがその女性に注文してくれた。
少しすると、その女性が生ビールを2つ持って来て置いていった。
日本の小ジョッキ位のジョッキだった。

「J、仕事中にビールを飲んでいいのか?」
「1杯くらい大丈夫だ。それに午後も俺とお前の、2人だけのミーティングだ、問題ない。 いいから
飲んでみろ。」

初めてドイツの生ビールを飲んだ。ビールをひと口口に入れると、麦の香りが口中に広がった。飲み物と言うより食べ物に近いとすら思った。少しすると
ホップの新鮮な香りと苦味を感じた。そして飲み込むと、変な後味はないどころかスッキリとした。
美味しいと思った。
そのことをJに言うとニヤッと笑った。

「ドイツで生ビールを飲みたかったらピルスと言え英語でビアーと言うと瓶ビールが出て来る。」
「分かった。」
「アメリカでビールと言えばバドワイザー、オランダでビールと言えばハイネケン。ドイツは?」
「思い浮かばない。」
「そうだろう。思い浮かばないのが正解なんだ。
ドイツでは、数社の大きなビールメーカーがビールを供給しているわけではない。約1200の中小の
ビール醸造所があるんだ。ビールの種類は約5千種類だ。」
「そんなにあるのか。」
「だから、この店の隣の店で出されるビールはこの店とは違うビールだ。」

ソーセージが運ばれて来た。大きなお皿に、大きな焼きソーセージとザワークラウト(ドイツの酢キャベツ)とマッシュポテトがのっていた。
そして少し酸味のあるライ麦パンも運ばれて来た。
ソーセージを食べた。日本のソーセージよりも少し塩味が強くて、日本の物より肉を食べているという感じがした。
これは美味しいと思った。
食べ終わるとJが、お前、まだ食べられるだろう、
と言って追加注文した。
運ばれて来た大きなお皿には、薄く切った15種類のソーセージが2枚ずつのっていた。

「その赤黒いソーセージを食べてみろ。」
「レバーの様な味がして美味しい。」
「そのソーセージが旨いと思うなら合格だ。それは腸に血を詰めて作ったソーセージだ。どうしてお前にこんなにいっぱいソーセージを食べさせるか
分かるか?」
「ソーセージを沢山ご馳走してくれているんだろ?」「それもあるが、実はソーセージはレストランで
1番安い料理なんだよ。だから、お客様と食事をする時は、ソーセージを注文してはいけない。こちらが1番安い料理を注文してしまうと、お客様が遠慮して、食べたい料理を注文出来なくなってしまう。
だから、お客様と食事をす時は、それなりの値段の料理を選べ。ソーセージが食べたくなったら、俺がここに来て食べさせてやる。いいな?
それから日本人はドイツ料理と言うとソーセージとしか答えない。ソーセージ以外にも旨いドイツ料理はたくさんある。俺と一緒に食事する時は、俺が
お勧めの料理を教えてやるから、それを食べろ。
せっかくドイツに来ているんだ。いろんな料理を食べろ。それに、この店よりも旨いソーセージは滅多にない。」 
「分かったよ、J。」

レストランの外に出て空を見上げると、奇麗な青い空だった。後2ヶ月もすると、この空が毎日灰色の空になるとは信じられなかった。
僕はJと仕事仲間ではなく、本当の友達になりたいと思った。






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