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10年越しの夢を捨てる時が来た

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どんな人生にも、希望はあると信じて。
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#機能不全家族

10年越しの夢を捨てる時が来た #12 【了】

10年越しの夢を捨てる時が来た #12 【了】

ー10年。

 長いようで、短いようで、少しは成長できたような、やっぱり何も変わっていないような、振り返れば駆け抜けた日々だった。がむしゃらに、時に荒々しく、夏菜子は目の前の患者に向き合い続けた。

 うつ病から復帰して何年かは、職場で過換気症候群に襲われて休ませてもらうことがあったり、朝目覚めたら失声症状が起こっていることがあったりした。看護師よりも負荷の低い仕事が他にたくさんあると分かっていな

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10年越しの夢を捨てる時が来た #8

10年越しの夢を捨てる時が来た #8

 夏菜子は決して人を寄せ付けないタイプではない。

 むしろ病院ではいつも笑顔でいて、冗談を言っては患者を笑わせるタイプだ。浮き沈みがなく患者を一番に考えて行動するので、患者からもスタッフからも人気が高かった。側から見ると、明るく元気で前向きな女性に見える。夏菜子はそういう自分を完璧に作り上げていた。
 わざわざそうする訳ではないが、夏菜子は自然とそう振る舞ってしまう。家庭環境が作り上げた虚像なの

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10年越しの夢を捨てる時が来た #10

10年越しの夢を捨てる時が来た #10

「佐藤さんは、いつもお弁当を自分で作ってるんですか?」

 昼食を摂るために休憩室にいると、不意に声を掛けられた。いつも看護師長との面談の時に、隣でパソコンを操作している事務スタッフの中村だ。妻子のある中村は、いつもコンビニ弁当を持って休憩室に現れる。穏やかな口調で、いつも目尻に皺を寄せている眼鏡をかけた細身の男性だ。
「はい。でも、作ってるなんて大層なものではないですよ。前日の残りを適当に詰めて

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