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澄み切った青空

お人好し

 僕の両親は“お人好し”で、僕が小学生の頃は6年間もPTAの役割分担で横断歩道の旗振り係をしていた。
 「他のお母さん都合つかないみたいだから、引受けたんだよ。」と、明るく笑うお母さんで幼かった僕はそんなお母さんが好きで、似たのかも知れない。
「人が困ってたら助けてあげなさい」と、よく言っていた。
 そう言いながら、何時も忙しく働いていた母の姿が焼き付いている。

 父親は余り口数が多くない人でスーパーの買物の帰りに、となりのお婆ちゃんとばったり合った時は、言葉少なく「荷物運ぶよ」てな感じで運んだりする人だった。
 父親は、「人が困ってたら、手伝ってあげな。」と低い声だが優しく話してくれた。

いつものおじさん

 僕が幼い頃から、“高田のおじさん”はよく家に来ていて朗らかな優しいおじさんが好きだった。
 僕が高校受験をする少し前に、お父さんの親友の高田のおじさんが家へ来ていてた事があった。
 後から知ったが、高田のおじさんは会社経営をしていて資金繰りをする際に“連帯保証人”にお父さんがなったと…。
 高校受験を終えて少したった頃に家に“銀行の外交員”が来て、「手形不渡りが発生したのでお話をしましょう。」そんな声が2階にいた僕に聞こえた。

 これから高校進学と言う僕だったが、大変な事が起きた事は察しが付いて、それが高田のおじさんの事が原因な事も…。

大丈夫

 あの日お人好しの母が2階の僕を呼びに来て、リビングで待つ父親から話しを聞いた。
お父さんは「隆は心配しなくて大丈夫だからな。」、母も父の横で「大丈夫、大丈夫!」と…。

 両親はあれ以来、仕事を掛け持ちをして3人揃う事は無くなったが、「大学に行きなさい。」と言う父の言葉が背中を押してくれて、僕は大学へ入学し上京した。
 両親は自分の事以上に喜んでくれた事が嬉しかった。
両親は「学費はなんとか工面できるが、生活費の全額は厳しい」と言い終わらない内に、僕は「生活費はアルバイトでなんとかするから、大丈夫。」と…。

学生生活

 上京し大学生活過す中で友人も出来て暮らし始めた。
 アルバイトも居酒屋さんでやり始めバイト代は生活費に向けられていて順調な滑り出しをしていたが、右から左にバイト代が通過していき、友人と遊ぶ暇もない毎日に…。
 時間とお金の両方ない毎日に心が折れた時だった。
 彼は友人と同じ学部で楽しく毎日過ごして、地方から上京したのに何故なんだと…?
 そんな時に彼が、「隆って言うだよね?」と話し掛けてきた。
 「おれも同じ様に時間とお金が無くてさ、心折れたんだよ。」と、優しく話されすっかり打ち解けた。
 彼は“坂井 涼”少しかっこいい名前だが、ゆるキャラでよく話す様になった。
 3ヶ月経った頃に僕が「涼ちゃんの家はお金持ちだね、あんなにに遊び歩けるんだから…」と言うと、涼ちゃんが「隆にだけだよ、率のいいアルバイト有ってな、内緒な」と言って、携帯電話を出した。



QRコード



 携帯画面にQRコードが有り、タップすると“今のバイト”と、内容が書かれていてい“犬の散歩”やら何やらそれはたくさんあった。
 中に“ぼこり”と書いてあり、西武線、前から3両目、池袋、16時21分、完了時40万、支払い方法 電子マネーと……!
「隆はこんなの無理な気がするよ」と涼が言って話しを終わろせようとしたが、この苦しい毎日から抜け出したくて隆は内容を聞いてしまった。

 涼は隆に内容を話し終わると豹変し隆に「俺は話し止めようよとしたけど、話し止めさせなかったよな。」と……………………。
 涼が「もう俺の管理下だからな!
今の会話はメンバー全員見たからな、逃げられないよ。逃げたら怖い事が起きちゃうよ。」と、優しく言い聞かす様に話した。
 次の日の朝に大学で会った涼はいつもの涼だったが、「時間とバイト内容送ったから…。」とすれ違い様に言った。
 
 携帯を見るとQRコードが有り、「えっ!」と思ったが、涼の言葉が引っ掛かりタップしてみた。
場所、時間、バイト内容、報酬金額、受け渡し方法と書かれていて、
恐る恐るそこへ行ってみた。
 “内容犬の散歩、1時間、8万円”と、隆は挨拶程度にその庭の大きな家に顔を出すと、女の人が出て来て「バイトのナンバーは何番?」と
慌てて「103」と答えると、「走って!!」と女性に言われ間もなく“ドーベルマンが放たれ追われまくった。
 1時間が過ぎると犬笛が吹かれのか、あの家に戻って行き女性から「報酬は携帯に送ったから!」と言って家に入っていった。
 汗だくになった体で擦り傷が傷んみ、ふと“門”を見ると“高田”と…。

 
 怖い思いをした“あの犬の散歩”だったが、報酬金を見てほっとした。
 やっと楽しい学生生活が出来て、居酒屋のバイト時間と生活費の事しか考えられなかった自分から解放されたが、何かを失った気がした。
 QRコードバイトは回を重ねる度により犯罪性が強まり“振り込み詐欺の受け子”と、人を騙す、脅す、傷付ける…………。

 自分のした事を顧みる事もせず、これは“仕事”で生活の為と自分自身に嘘をつき騙してきたが、弱い自分が“あの高田”と同じ様になったと、知りながら現実の厳しい生活から抜け出し暮している。

 両親と自分の人生すらイタズラに壊した様に、成りたくない自分になっていく。

 少しずつ目に見えない善悪のベールの向う側へと連れて行かれていた。


お母さんの死

 突然の深夜に携帯が震え、寝ぼけながら画面を見ると“父"の表示されていて嫌な予感がした。
 急ぎ高速バスに乗り帰ったら、家には父親がげっそりとした顔で出迎え、横たわり冷たくなった母を見て僕は立ちすくんでしまった。
 葬式やら納骨と忙しく過ぎて、来てくれた母の姉がぽつりと呟くように僕に「過労死だなんて、どうして?」と…。

 高田のおじさんの連帯保証人になり負債を背負ってしまったばかりに、過労死した母を思っていたが、父はそれ以上に妻への想いが募り高田の事を調べていた。
父が高田の居場所調べていて東京いること、ドーベルマンを飼っている事と今の生活ぶり。

 高田のした事が高田の浪費癖のある妻による計画で、資金繰りの負債を父親に追わせ、資金繰りが悪いと言う高田の会社では儲けたお金を裏帳簿でプールし、計画倒産した事が判明し銀行の金融調査部から父に知らされた事を、父の先輩の赤川さんから聞いた。

 書類上全て問題なく事務手続が整っていて、連帯保証人の父だけが書類にしっかりと明記されて僕の家族は犠牲になり、高田本人は楽に人生を生きている。

現実

 大学へ戻ると涼が「お母さん、残念だったな、気をしっかり持てよ」と、意外にも優しく声をかけられた。
 涼が「バイトはもう止めなよ」言ったが、父親の落ち込みが酷く仕事も手につかない現実を見てそうも行かなかった。

 気を持ち直してQRコードをタップし生活をしないといけない。
バイトナンバー“789”、ボコボコ、書かれた住所はあのドーベルマンの家だった。
 バイト内容は単純であの高田夫妻を、ボコボコにするたげでそれ以上でもなくそれ以下でもない。
 善悪の目に見えないベールを簡単に超えて、隆は何の戸惑いもなく淡々と高田のボコボコバイトを実行した。
 
 誰も罰する事がなく、人を平気で踏み付け様な人が笑いながら暮らし、 必死に直向きに頑張る人を利用して楽楽に時間を過す。


手紙

 隆の元に“ゆうパック”が届き、報酬金がシワシワの紙幣で払われて、少し土が着いた封筒に手紙が入っていて…

 ““夫婦二人三脚で少しの幸せを紡いぐ様に息子を育てました。
 連帯保証人になり債務を背負い込み、妻にはしなくていい苦労をさせてしまい、死なせてしまった事を悔やんでいます。
 先日テレビニュースを見て、少しだけ気が晴れました。
有難うございます。”“と、あった。

 読んだ手紙の文字を見てハッとして我にかえり涙し、 自分のしてしまった事に心が凍てついた。

 夏休みに父しか居ない家へ電車で戻って故郷の駅で降りた。
 スーパーの方向を見ると、隣のお婆ちゃんの荷物を抱える父がいて
僕を迎えに来たのに何してるんだか?
 僕の方向を向いて「お帰り!」と、手を降る父を見て嬉しかった。


 あれ以来涼と連絡を取ってない。
涼からも連絡してこない、彼なりの優しさに感じる様に心を騙した。
 また、居酒屋と大学を行き来する毎日を過ごしているが、心はいつも曇り空で、青空は無くなった。

 自分が作り出したてしまった曇り空が澄み切った空を消すように、心が痛い。

 僕は強くなって青空を見たい。
もう、再び見れないけれど…!

  ……………………END……………………

 

 

 


 

 


 

 


 


 


 
 
 

 

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