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薄いベール

学生

 テレビのニュースで身だしなみを整えたアナウンサーが淡々と告げる。「振り込み詐欺の振り子のバイトした大学生が逮捕されました。」
 暫くすると「“ラフィ”の指示で、盗みを働く学生が逮捕されました。」と、同じアナウンサーが淡々と告げる。

 
 お笑いの芸人さんが司会をし、大勢のタレントさんを呼んであれこれ話す楽しい番組を軽く見て笑っていた。 
 あのアナウンサーがタレントさんと並び緊張しながら座っていて、去年入社したアナウンサーとの紹介がされていた。
 話題が“卒業の思い出”になり、司会のお笑い芸人さんがアナウンサーに話しを振った。
 新人アナウンサーは大学の卒業旅行で仲良し4人組でオーストラリア旅行をした時の話しを楽しく話していて、とても好感を持てる話しだった。
 

彼女


 その番組を見てから年頃が丁度息子と同じ様な事もあり、アナウンサーが出ている番組を気にかけて見る様なっていた。
 丁度アナウンサー達の車を紹介する番組をやっていて、妻と2人で見るのだかこの日も並んで見ていたら妻が「あの娘さんは恵まれてるね、卒業旅行やら今度は車でしょ、しかもあの車は何? 虎が付いてるの?」
「違うよ、ジャガーだよ」と僕は答えながら、20歳前半の新入社員が乗れる車だろうか??
 貧富の差に驚きながらも、不信感を感じていた。

ありがちな現実

 地元で進学校へ入り関東圏の大学へ進学し、親元から離れ暮らしている学生が多い中で生活する基盤の“アルバイト”が、無くなったとしたらどうだろ?
既に入学金やら諸々奨学金などで、やり繰りしている親の姿を目の当たりにしている学生と言う名の子供達が沢山いる。
バイトが無くなり学生生活が成り立たなくなるが、地方の脆弱な経済の中を暮らす親達にはお金の心配をかけられないと思ったりする学生は多くいる。
 
 学生を辞めると言う選択肢も有るが、既に奨学金のローンは発生していて後が無い状態の中で、“闇バイト”が学生に囁く様に近づいてくる。
 しかも、ネットの文字だけが優しげな雇主で…!
 善悪の見えないベールを軽々と破りさる様な、救世主にすら思うかもしれない…。

違和感

 あのアナウンサーは華がありいろんな番組に出る様になり、自己紹介程度だが彼女の地元や親達までテレビで紹介された。
 北陸の都市部ではない少し離れた所で、父親は中小企業の会社員で母は派遣で事務仕事をしている、よくありがちな各家族の一人娘で特に財産が有るわけでもなく経済的余裕が伺われない。
 あの車とのギャップが埋まらないままだった。

 この家族の放送後に注目を浴び、ゴシップ雑誌がいち早く出した記事は…、「違和感、アナウンサー!」
 調べられ始めると違和感ばかり、経済的な事、彼女の生活、持ち物、自動車等全てが…?


救世主?
 


 ある朝、妻とテレビを流しながら食事をしていたら、妻が「あの娘!」と、僕は「えっ!」と振り向いた視線の先のテレビには…。
 男性アナウンサーが「逮捕、アナウンサーの森谷 栞里」とテレビに流れた。

  
 彼女こそ学生から“ゴッド”と言われていた、ネットで“闇バイト”を指示した人だった。

 ネット上で、彼女の嘆願書が多数寄せられたり、多くの感謝の言葉が寄せられている。
 
現実の壁は固く厚く重いもの!

貴方の“善悪の薄いベール”は大丈夫?

  ……………………終……………………


 
 



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