「Tatsuya Mori TV Works~森達也テレビドキュメンタリー集~」|稲田豊史・ミステリーファンに贈るドキュメンタリー入門〈語っておきたい新作 #02〉
文=稲田豊史
森達也が90年代に制作したTVドキュメンタリー4本が、2021年12月に初DVD化された。価格は少々お高いが、今までVHSや配信などでも一切観ることができなかった〝幻の作品群〟ゆえ、所有して損はない(筆者も購入した)。当時は地上波での放映だったが、同じ内容を令和の現在に放映するのは難しいだろう。それほどまでに「題材勝ち」の4本なのだ。
『ミゼットプロレス伝説~小さな巨人たち~』(’92)は、昭和の時代に時折TVで見かけた、いわゆる小人プロレスの興行団体に密着したもの。小人が「かわいそう」であるという〝良識的判断〟が小人レスラーたちの仕事を奪う――という皮肉な状況を追う。一方で、「プロレスは真剣勝負ではなく、緻密な段取りが対戦者同士で〝練習〟されているショウである」、つまり「FAKE」であることをしれっと明かしてしまっている点が、実にお茶目だ。
『職業欄はエスパー』(’98)は、かつてスプーン曲げで日本を騒がせた清田益章ほか〝自称エスパー〟たちの生活を追う。森自身がエスパーに寄り添うフリをして超能力を信じておらず、むしろ彼らの〝しょっぱい〟生活や胡散臭い言葉を捉えることで視聴者に判定を預ける点など、『FAKE』にも通じる作りだ。
「結論を出さない」といういい意味でのズルさ全開なのが、動物実験の実態を追った『1999年のよだかの星』(’99)。「実験される動物がかわいそう」というヒューマニズムに訴えかけると思いきや、中盤で筋ジストロフィー患者とその家族にインタビューを敢行。「動物実験によって医療技術を発達させなければ、彼らは生き長らえられない」という死球ギリギリの問いかけをぶち込み、視聴者に判断を全任する。
『「放送禁止歌」~唄っているのは誰?規制するのは誰?~』(’99)は、『A』『A2』『FAKE』すべてに挿し込まれている森の十八番「マスメディア批判」全開の痛快作。誰も規制などしていないのに、忖度と配慮と「クレームに対応するのが嫌」だからと特定の曲を流さないTV局のヘタレぶりを、とことん糾弾する。
なお『ミゼットプロレス伝説』は小人レスラー同士のタッグマッチが開催され、それが番組の山場になっているが、DVD特典のブックレットには、タッグマッチを〝提案〟したのは森であると森自身が明かしている。また、『職業欄はエスパー』では、基本的にはすべてのシーンを森が「仕掛けた」そうだ。
被写体への「関与」は30年前から森のお家芸なのだ。
(ジャーロ NO.81 2022 MARCH 掲載)
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