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エッセイ

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どうでもいいような、だけどあるとちょっとウレシい毎日のことです。
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#旅エッセイ

ちいさな旅のこと #4宿のこと

ちいさな旅のこと #4宿のこと

一日目はビジネスホテルに。二日目は、カプセルホテルに泊まった。
旅の大きなたのしみのひとつに、宿がある。部屋が広く、眺めが良く、どこもかしこも磨きあげられていて、シトラスの香りがする宿。で、なくてもよい。ひとり旅ならなおさら、せまくてふるくて使い勝手が悪くて、部屋がなんとなく薄暗い。それで、かまわない。知らない町のすみっこで、しずかに呼吸をしながら、縮こまっているような気分になる。そのほうが、妙に

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ちいさな旅のこと #3 本のこと

ちいさな旅のこと #3 本のこと

街を歩き回りながら、ふと足を止めてしまうのは結局いつも同じ場所で、それは本屋である。軒先に並ぶ古本のワゴン。ふらふらと吸い寄せられてゆく。旅先で本を買うなんて、本来はやってはいけない。旅はいかに荷物を軽く、身軽でいられるかということが重要なのであって、本などという重くてかさばるものを増やしてどうする、とわたしの頭はちゃんと分かっている。でも、気づけば右手は、本を棚から抜き取ってレジへとせっせと運ん

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ちいさな旅のこと #2街のこと

ちいさな旅のこと #2街のこと

ホテルで目を覚ますと、カーテンの向こうはもったりと曇っていた。今日は、午後から雨になるらしい。昨日は山へ行ったので、今日は街へ行こうと思っている。身支度を済ませて、ホテルから一番近い喫茶店へ向かった。

その喫茶は、おじいさんがひとりで営む店だった。モーニングメニューをひと通り眺めて、迷うことなく「チーズトーストセット」を頼んだ。おじいさんは「ハイ」と言ってキッチンへひょいと戻り、一斤まるごとの食

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ちいさな旅のこと #1山のこと

ちいさな旅のこと #1山のこと

秋が来たらば、どこかへふらりと行かねばならない気がして、少しばかり旅に出ることにした。旅と言っても、そう遠くない場所だった。電車を乗り継いで二時間もあれば目的地に着いて、六甲山の麓で、ケーブルカーのチケットを買う。けれど、先ほどコインロッカーに預けたボストンバッグの中には、寝間着や、歯ブラシや、三日分の靴下や、多めに用意したポケットティッシュなどが詰まっている。これを旅と言わずに、なんと言おうか。

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