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半フィクション③


「想像力」って、利己的な言葉だよな。




日曜日。
朝の情報番組をぼーっと見ていると、
コメンテーターが、迷惑行為をする若者に対して
「想像力が足りない。何故迷惑がかかる人がいる事を考えられないのか」
とか言ってる。

…そうなんだけど、何か違うんだよな…。

迷惑被る側のリスクとか心情を察しなさいって事だと思うんだけど、それって被る側の想像力を想像しろって事なんだよね。

経験してないものを想像する事はできないよね。
映画や読み物で擬似体験したり、似たような経験や感情を派生させて想像する事は出来るけど。
それも結局は自分の中の経験値から練り出した想像でしかないわけで。

つまり、件の若者に足りないのは「経験値」なんじゃないかな。
もしくは、経験値を持って想像力を行使した上で迷惑行為をするという選択肢を自ら選んでいる。
つまり私たちの価値観、ものさし上に彼らはいないという事。

別に迷惑行為をする若者の肩を持つ気はないけど。
例えば大人だって、パワハラ、モラハラ、不倫にDV…相手への想像力欠如が故に人を傷付けたり迷惑をかけるじゃん。
それは相手の立場を想像するに足る経験値不足なのか、はたまた確信犯でありそういう生き方を選択した人なのか…。

何十年と経験値を踏んだ上での"大人"の選択と、
例えば「楽しみ」や、「豊かに生きる生き方」を、ただまだ知らないだけかもしれない"若者"の選択と、
果たしてどちらのたちが悪いのか…。

かく言う私も、まだ自分自身に何も見出せない若者なんだけど。
ただ私は一般常識と言われる事に従い、マナーを守る生き方を選んでいるだけ。
決められたものに従っているだけで、何も生み出せない空っぽ人間なんだけど。


さ。
今日も文化祭準備だ。
出発しよ。









教室に入ると既に数人が作業を始めていた。
机とイスは全て後ろに下げられ、広い空間ができた前の方で、役者組が立ち稽古している。

「おはよう!廊下の壁の装飾案考えてきた?」
窓際に装飾リーダーのまきが胡座をかいて座っていた。

「おはよう。一応私なりに考えてきたよ。」
と私は隣に座り答えた。

程なくして装飾担当の4人が揃い、打ち合わせが始まった。

「じゃあ早速始めようか。今日は教室側の装飾案を作り方まで決めちゃおう。出来たら窓側のイメージだけでも固めたいね!」

「私、イメージつきやすい様に、ネットで去年までの装飾賞撮ったクラスの写真とか、他校の文化祭の良い感じの装飾画像を印刷してきたよ!」
相変わらず装飾に対する思いは強めな私。

「流石過ぎ!ありがとう、ちな!」
感謝の気遣いを忘れないまき。懐も深くて友達としてとても尊敬してる。

早速皆で回して見る。
昨日私は散々見てテンション上がったけど、いざ、ではうちのクラスの装飾どうするか、となると、そこから一切アイディアは浮かばなかった。
「私個人的には、こういうステンドグラスっぽいデザインが好きで、どっかに生かしたいなと思う。」
個人的希望だけを無責任に述べる。

「いいね!可愛い!」
「やろう、やろう!」
流石は女子の共感力。
唯一男子の神田も受け身な感じで頷いてる。

「あすみはどんな感じで考えてた?」まきが振る。
「ちなが持って来てくれた写真見ても、教室の壁側って劇のタイトルくるのがデフォだし、そこはまずそれで良いと思う。そのタイトルのデザインどうするかだよね〜。」
議論が一つ前に進んだ。より具体的で的を得てる問題提起。
先程の自分の安直な発言が一気に恥ずかしくなった。

「神田は?」
「俺はデザインとかは考えられないんで、任せるわ。材料調達の段階になったら、うち兄貴が車運転できて軽トラ出しても良いって言ってくれてるし、力仕事系は任せて。」
「まじか。兄貴神じゃん。」
「兄貴様〜。イケメン過ぎる。」
「本当ありがたいし、まじで助かるわ。色々アドバイスとかもあったら聞かせて欲しい。」
「おけ。今度聞いとくわ。」

神田のお兄さんはうちの高校出身らしい。
身内のカード強過ぎ。

「私も教室側の壁はタイトルメインで良いと思ってた。デザインは、私中学ん時一応美術部やってたんで、良かったらいくつか案書いてくるよ。」
「すげー。デザイン考えられるのつえーな!」
「まき、ありがとう〜!」
「ありがとう、お願いします!」

「いやでもそんな上手くないから、期待しないでね?!…タイトル以外の背景部分のデザインはどうする?」



…議論は進んでいく。






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