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辛いダイコンを甘くみて、謝罪するハメになった話

「いいこと思いついた!今夜のメニューはミートボール・サブにしよう」

土曜日の昼下がり、外出先で夫が言いだしました。それを聞いて、子どもたちは、やったぁ!と手を挙げてはしゃぎ始めました。

子どもたちが通っている小学校のカフェテリアにも、毎週何曜日かにミートボール・サブがメニューに登場します。特に息子はそれを気に入って、何度か食べています。

それを家でもやろうというわけです。

作るのはいたって簡単。ミートボールをホットドッグ用のバンズに挟んで、上からトマトソースをかける。仕上げに、シュレッドしたチーズを上からかけたら出来上がり。

ミートボール・サブ(イメージ)

本当は、ミートボールをトマトソースに絡めてからバンズに挟むのが正攻法です。でも、娘が「トマトソースはいらない!」と主張するので、我が家ではこうなりました。

ミートボールは買い置きの冷凍ものをオーブンで焼いただけ。トマトソースも、もちろん手作りではなくて市販のもの。だから、準備はめちゃくちゃ簡単です。そう、手抜きの日です。

付け合わせには、夫がサラダを作りました。

一方で、わたしは、冷蔵庫に入れっぱなしで古くなっていくダイコンと白菜を今日こそなんとかしたくて、塩昆布を使って浅漬けを作りました。

ダイコンと白菜の塩昆布漬け(イメージ)

あ、いま、「ミートボール・サブの付け合わせに漬物…?」と思いました?

そうですね、イタリア系アメリカ料理のサブに純和風の漬物。どう見ても仲間ではないですね。

そのことは、わたしも気がつかなかったわけではありません。でも、まぁいいかということにしました。食べるとき、ミートボールと漬物を一気に口の中に入れて、味を混ぜるわけではないですし。

別々に口に入れて、それぞれに味わうわけだから、まあギリギリいいんちゃう。少なくとも、アウトではない。

というのがわたしの感覚でした。

ミートボールは、冷凍ものですが、大きさも味もしっかりしていて食べ応えがありました。ミートボール×トマトソース×チーズという組み合わせは、一口めからもれなく幸せをもたらしてくれます。子どもだけでなく、大人にも。そして、パスタにすればいいところを、サブで食べる手軽さがアメリカっぽい。

わたしは、ミートボールサブとサラダを往復する合間に、例の漬物をぽりぽりっとつまみました。

あ、ダイコンがまだ辛い。

何回か噛んだ後に、わさびっぽい辛みが口に広がりました。そのちょっと強すぎる辛みは、飲み込んだ後もしばらく消えずに喉の奥に残りました。

実は、この辛みは、味見したときにもありました。でも、きっと漬けているうちに和らぐだろうと思って、そのまま放置していました。

ですが、漬ける時間が短すぎたのでしょう。辛さのせいで、これは完全に大人の味です。子どもたちに勧めるのはやめよう。

食事の合間に、一度夫に勧めてみました。

「これ、食べた?」

夫は、ちらっと漬物に目をやってから、

「いま、いろいろ食べてるからいいや」

と答えました。やんわり断っています。わかってはいましたけど、興味なさそうです。

夫は、食べ合わせにうるさい人です。一緒に食べる料理の相性が合うか合わないかの判断がはっきりしていて、合わないもの同士を同じ食卓に並べることを嫌がります。

例えば、以前、夫が作る洋風のメニューに合わせて、副菜でほうれん草のソテーを作ったときのこと。わたしが白だしと醤油の味つけにしたら、夫は、

「ハニー。君は本当に醤油が好きだね」

と言いました。言外に、今日は醤油じゃないでしょ、と言っていました。

でも、わたしにしてみれば、だしも醤油も万能です。向こうは西洋でこっちは東洋。ジャンルが違うことは認めるけれど、合わないってことはない。

夫には夫の判断基準が、わたしにはわたしの判断基準がある。結果として、我が家の食卓では、西と東が混在するようなことがしょっちゅう起こっています。

どうなんでしょう。わたしが無頓着すぎるのでしょうか。

夫の反応はわかっていながらも、わたしはその後、例の漬物をもう一度夫に勧めてみました。せっかく作ったし、一人で食べるには大量に作ってしまったし、ちょっとお愛想で味見くらいしてほしいなと思ったのです。

そのとき、夫はもう自分のお皿にあるものをすべて食べ終わっていました。

わたしが、「食べてみて?」と漬物の器をぐいっと差し出すと、一秒くらい間をおいてから、「オッケ」といって受け取りました。

ダイコンを一切れ、ぽりり。

もぐもぐもぐ。もぐ。もぐ?もぐ?!

夫の顔が、みるみるうちに歪んでいきました。言うなれば、赤子が少しずつ顔をしかめて、ぎりぎりまで顔を歪めて、もう無理という限界に達し、いまにも泣き出しそうになるのを、皮一枚でこらえているといった表情でした。

そこから、夫は高速で咀嚼して呑みこみ、急いでコップに手を伸ばしました。水をゴクゴクと流し込んでから、

めちゃくちゃ辛いんだけど?

と言いました。やや攻め口調です。どういうことか説明しろという感じでした。

やっぱり?

いや、一つだけ言い訳させてもらうと、ほら、君はいつも寿司を食べるときにわさびを大量に入れるじゃない?この手の辛さには強いのかと思ったよ。

「いや、わさびの辛さと全然違うし」

そう?まあ確かに、わさびは鼻にくるけど、ダイコンは喉にくるね。

夫は、ため息らしき深い息を一回吐いてから、台所に立ちました。余っていたミートボールを一つ皿に乗せ、丁寧にトマトソースをかけ、その上にチーズをかけました。

そして、まっすぐにわたしの目を見て、はっきりとした口調で言いました。

「君のおかげで、もう1個ミートボールを食べなきゃいけなくなったよ」

夫は、ダイコンの味を、ミートボールで上書きしようとしていました。

……すいませんでした。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

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