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イギリス大学院留学で社会人が奨学金を得る方法論

こんばんは、マサキです。
社会人留学となると、避けて通れないのがお金の話。この体験談を今日はしようと思っています。多くの人が既に述べられているように、社会人が奨学金を得るのは、学生より遥かに大変です。加えて、イギリス大学院で奨学金ありというのはアメリカ大学院より遥かにハードで、もはや無謀と言えます。国内の奨学金は年齢制限があるものが多く、当然ながら若者・学生が優先され、採択される社会人は全奨学金で見ても約3~4人という状況です。かと言って、奨学金に頼らず、貯金を崩して自費留学するというのは、私の選択肢としてはありませんでした。なぜなら、MBAを例外として、Ph.D.を取得したからといって、将来的に収入が確実に向上すると約束できないからです。私は、十分な金額の奨学金が得られなかったら留学は諦めて、国内の大学院で社会人博士になろうと思っていました。結果的には、4つの奨学金に受かり、通常の学生よりもリッチな条件で進学することができたため、留学を決めました。私が合格したのは、以下の奨学金です。

・Clarendon Fund Scholarship 授業料免除・生活費支給
・Oxford Kobe Scholarship 授業料免除・生活費支給
・渡辺財団国際奨学金 生活費支給
・BCJA奨学金 生活費支給

大学院留学を迷われている方が、状況を整理できるよう、現実的な側面に関してもきちんと説明したいと思います。

社会人で奨学金付きイギリス大学院PhDは茨の道。

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留学先を決めるとき、アメリカかイギリスかは非常に迷う項目だと思います。

アメリカの場合、博士課程に入学すると、授業料などが免除になるケースが多く、TA・RAをすることによって、収入も増やすことができるため、金銭面での心配はそこまでシビアではないでしょう。(もっとも、最近は日本の奨学金合格なしには、トップ校には合格できないようになってきているようですが、イギリスと比べれば大学からお金をもらえる確率は遥かに高いです。)しかし、日本の修士号を認めてもらえず、再度修士号のコースからスタートとなり、最低5年はかかります。また、極度の詰め込み型教育のスタイルもあり、入学後の最初はずっと授業や課題に追われることになります。

一方、イギリスの場合、日本の修士号を認めてもらえるため、博士課程は3年前後で終了できます。また、授業や課題はなく、TA/RAも一般的でないため、研究に集中することができます。加えて、卒業条件は博士論文提出のみであり、逆に言えば、提出さえしてしまえばもっと早く卒業できます。私の知る限りの最速はこの人で、1年7ヶ月で終了しています。(もっとも、飛び級しすぎて博士課程終わった時点で21歳だった人のため、参考にはならないかもしれません、、)

社会人研究職として働いていた私にとっては、今から再度授業というのは今までの軌跡を認めてもらえないように思えて辛く、また、5年間再度大学に戻るというのも年齢的に厳しかったため、アメリカ留学を諦めました。コンピューターサイエンスの修士号だけ2年間で取って、GAFAに入社し稼ぐ、という道もかなり悩みましたが、エンジニアではなく研究者として働くにはPh.D.はほぼ必須であるため、断念しました。

一方、オーストラリアや、カナダの大学というのも選択肢としてありましたが、私個人のこだわりとして、母校の東大よりも大学ランキングが上位の英語圏大学院に留学したかったので、この2つも候補に入りませんでした。大学ランキングは毎年変わりますし、分野にも依りますので、これは私のこだわりであって、絶対的な指標ではありません。

上記の理由から、私の目指す大学は、オックスフォード大学またはケンブリッジ大学でのPh.D.の2択となりました。

しかし、大きな問題は、この2つの大学に奨学金付で合格するのは、アメリカの大学院で奨学金付で合格することよりもよっぽど難しいということです。アメリカのトップ大学院の合格率は約5%と言われています。これは、授業料免除・生活費支給が確約されているために、ここまでの数値となります。一方、イギリスのオックスブリッジの大学院合格率は約15%であり、合格自体は約3倍簡単であると言えます。(ちなみに、東大の学部の合格率は約34%ですので、激しい競争率であることがわかると思います。)イギリスの場合は、面接や英語試験が合格だったというだけであり、奨学金は付与されません。授業料免除・生活費支給の奨学金は、オックスフォードではClarendon奨学金、ケンブリッジではGates奨学金の2つが有名です。この奨学金は、入試成績がTop1%の学生にしか渡さないことが明言されており、実際、各学部で1、2人しか付与されません。すなわち、アメリカと同等の条件での合格を考えると、15% × 1% = 0.15%となり、アメリカのトップ大学より約33倍難しいと言えます。私が受験した時点で、Clarendon奨学金に合格した日本人は歴史上4人しかいませんでした。すなわち、大学からの奨学金を当てにしてイギリス大学院留学というのは、無謀といっても過言ではありません。(追記:2021年度は4人もいました!増加傾向で素晴らしいです!wiki参照: https://ja.m.wikipedia.org/wiki/クラレンドン・ファンド)

イギリスの大学院で博士をとる人のほとんどは、母国での奨学金によって生計を立てています。しかし、述べたように、日本の奨学金は、社会人にかなり厳しく、日本の奨学金を得ることは期待できません。事実、私の観測範囲で、日本人社会人でイギリス大学院に留学している人の多くは社費留学です。すなわち、社会人がイギリスの大学院にPh.D.留学するというのは、会社の援助なしには、ほぼ無謀と言えます。

私もダメもとで受験した結果、運良く3つも合格することができましたが、可能な限り合格できるよう戦略を立てたので共有します。

戦略1:社会人の採用実績のある国内奨学金を受ける

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王道と言えるでしょう。特に、新設したばかりであまり知られていない奨学金はおすすめです。私のケースでは、以下の3つを受験しました。

渡邉財団国際奨学金
重田教育財団奨学金
BCJA奨学金

渡邉財団国際奨学金は、2020年度からスタートした新しい奨学金で、かつ、初年度の受給者に社会人博士の人がいたため、ここが私の本命でした。ご選出頂き誠にありがとうございます。

重田教育財団はほとんど情報がなかったのですが、社会人がOKであると明確に記述されているので、期待値は高いと思います。重田教育財団に関しては、まだ結果が出ておらず、受かったか分からない状況です。
(追記)落ちました!残念です!

また、BCJA奨学金に関しては、15万円と額は少ないのですが、併願可能で、かつブリティッシュカウンシルから発行される奨学金に受かるということが名誉になります。実際、合格率が公開されていて、 5 / 63 ≒ 8%と狭き門でした。私のケースでは最後に受けたのですが、もし順序が逆で、最初に合格したのであれば、他の奨学金に合格する際のプラス材料としても確実に役に立つと思います。設立者の方のインタビューも興味深いので良かったら確認してみてください。

他にも、皆様が受験されるときには、また別の奨学金が立ち上がっているかもしれないので、感度高く情報を調べられるのが良いと思います。

戦略2:Research studentship/partnershipのあるコースを探す

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これも鉄板です。イギリスの大学院のPh.D.の中には、何の研究をするのかある程度決まっているコース制度があります。このコースの中には、産業界のパートナーから奨学金が出資され、授業料が免除になったり、生活費が支給されたりするものが存在します。例えば、こちらにstudentshipの一覧があります。

また、イギリスの国立研究所から予算が出るpartnershipのプロジェクトもいくつか存在しています。(例えばこちら。)このようなプロジェクトに参加できれば、お金の心配はほとんどないでしょう。

問題点としては、非常に限られたコースしかないので、自身の興味と一致するコースがあることは稀であるということです。また、期間も大抵4年縛りであり、最短コースよりは1年追加となってしまいます。とはいえ、一番現実的な資金調達方法なので、興味が一致するものがあるなら、是非受験するべきです。

戦略3:教授からGrantを出してもらう

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これも比較的有望な方法です。有名教授であったり、共同研究先が大企業であったりすると、予算に余裕があり、Ph.D.の学生の授業料や生活費を払ってくれることがあります。これは、私の周りのオックスフォードの社会人学生では比較的よくある調達手段で、特に交渉していなかったけど、入学したら資金を用意してくれていたということもあるようです。

これの問題点は、不安定・不確実だということです。よっぽど気に入られていたり、見込まれていないと、このようなことは起きないですし、財政状況も毎年変わるので、急にダメと言われる可能性もあります。また、こういう交渉は、基本的に合格してから行うもので、合格した後で予算がないことが分かって困るということも有り得ます。

このようなリスクを下げるために、志望研究室に所属している学生とコンタクトを取り、状況を聞いておくのは非常に重要です。研究室のホームページから、学生の名前を調べ、LinkedInなどで調べれば連絡を取ることができます。LinkedInでは経歴も見れるので、社会人を経てから戻ってきた人に聞くと、特に確実な情報を得られます。

戦略4:カレッジの奨学金に応募する

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オックスフォード・ケンブリッジでは、学部の他にカレッジを選ぶことができます。このカレッジごとに紐づいた奨学金があるので、カレッジ選択によって奨学金獲得のチャンスを上げることができます。私のケースでは、日本人を対象とした奨学金であるKobe Scholarshipが、St. Catherine's Collegeから出資されていることを調べ、St. Catherine's Collegeを選択しました。このお陰で、Kobe Scholarshipに採択され、授業料免除を確保できました。(追記:毎年2人程度のようです。もう1人もクラレンドン受給者でした。)

これも問題点は、入学ギリギリになって判明するということです。Clarendon奨学金の合格は3月、Kobe奨学金は6月に通知されました。それまでは、資金調達なしだったので、半分諦めかかっていました。

最後に

かなりの綱渡りを要求されるので、資金を確保するまでは、不安でいっぱいだと思います。上記にあげた4つの戦略をきちんと調べあげ、対策を打ったのなら、それ以上はこちらでコントロールできるものはないので、諦めて待つしかありません。人事を尽くして天命を待つ。Do the likeliest, and God will do the best. 私のような幸運があなたにも訪れることを祈っています。

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