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【読書】『どうしても生きてる』朝井リョウ【心がひりひりするけれど絶望感はない】


「最近はまっている作家さん」の記事で挙げた朝井リョウさんの作品、『どうしても生きてる』を読み終えました。


読むのが少し辛くなるくらい、心がひりひりします。でも、読み終わった後には、不思議と絶望感はないのです。皆さんも私もたしかに生きているという安心感さえ抱きます。


必死に生きる人々が描かれる短編集


『健やかな論理』
離婚の経験がある佑季子は、事故や自殺のニュースを見ると、とある行動をとる。
人は、ふと消えてしまいたくなることもあるけれど、それと同じくらい、生きていたいと思うこともある。


『流転』
かつては漫画家を目指していた豊川。
自分に嘘をつかずにい続けることなんて、可能なのだろうか。


『七分二十四秒めへ』
雇用を切られた派遣社員の依里子は、何かの役に立つわけではない動画を見ているときだけ、生きた心地がする。
本能のままでいられたら、どんなに毎日が楽しいだろう。


『風が吹いたとて』
クリーニング屋さんで働く由布子は、自身の周りのことをこなすことで精一杯だ。
社会の正義について思いをめぐらす時間なんてない。明日もなんとか生きていかなければならない。


『そんなの痛いに決まってる』
良大は、転職先で嫌味な上司と接しながら、何事にも「大丈夫」と言って対処していた前職の上司を思い出していた。
誰だって、痛いときに痛いと言える人が一人でもいれば、生きていけるのかもしれない。


『籤』
劇場で働くみのりは、これまで様々な運命に引き合わされてきた。男女の双子で、女に生まれたこと。中学生のとき、母が他界したこと。
人生の籤は、受け入れる受け入れないを選べるものではない。でも、一つ一つを受け入れて、どうにか大丈夫にしていくんだ。


『そんなの痛いに決まってる』


私にとって一番印象的だったのは、『そんなの痛いに決まってる』です。


大丈夫かと尋ねられれば、大丈夫と答えるしかない。止まれないから、進むしかない。


大人の世界ってそうだよね、わかるよ、と共感しました。無理をしないようにとか、逃げようとか休もうとか、それが正しいことはわかります。でも、私が今ここから逃げてしまったら、明日からの生活はどうなるのでしょう。私が担当していた仕事は同じ部署の誰かが代わりにやるのでしょうけれど、その人にそんな負担をさせて良いのでしょうか。


そんな社会の中で、泣きたいときに泣ける、辛いときに辛いと言える場所は本当に大切だと思います。


生きていくため、痛いときには痛いと言うようにしたいし、私も周りの人が痛いときに痛いと言える場所でありたいなと感じました。


毎日大変だけれど何とか生きているという皆さんに、この作品が届きますように。




お読みいただき、ありがとうございました。





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