見出し画像

第6話 サブダクションファクトリー:大陸を造る巨大な工場

ジオリブ研究所所長、ジオ・アクティビストの巽です。

SDGsという言葉さえ使えばなんだか地球に優しく、人類の将来のことに配慮しているかのような風潮には辟易する。一方で携帯電話などの都市鉱山の再利用やゴミの分別回収など、このごろは「リサイクル」もずいぶんと当たり前になってきた。まだまだ「ゼロ・エミッション」とはいかないものの、日本のように天然資源に恵まれない国にとってはまさにSDGsに向けた必須の取り組みであろう。

なぜこんなことを冒頭に述べたのかというと、私たちが暮らすこの惑星「地球」は、実にダイナミックで見事なリサイクルを実践しているのだ。今回と次回は、この壮大な地球の営みを眺めてみることにしよう。

サブダクションファクトリー

日本は世界一の火山国だ。国土は地球表面の0.1%にも満たないのに、世界中の約7%にあたる111座の活火山が集中する。なぜこれほどに火山が多いのか? その原因は、列島の地下に太平洋プレートとフィリピン海プレートと言う2つの海洋プレートが沈み込んでいる、つまり活発な「沈み込み帯(サブダクションゾーン)」であるからだ。

このような沈み込み帯で、マグマそして火山を作る犯人は「水」である。プレートは地下へ潜り込むと、周囲の圧力が高くなってギュッと押し縮められる。すると、水を含んだスポンジを握るのと同じように、プレート、特にその表面付近の海洋地殻や海底堆積物に含まれていた水が絞り出される。もちろん水と言っても、数百度以上の温度なので「熱水」である。

実はこれが魔法の水なのだ。と言うのも、水には岩石の融点を下げて融けやすくするという性質がある。もちろんこの水には、水溶性の元素もたくさん溶け込んでいる。こうしてできたマグマは周囲の岩石よりも軽いために、地表へ向かって上昇する。その一部は火山から流れ出るのだが、第5話でお話ししたように、大部分のマグマは地下で冷え固まって「大陸地殻」を生み出すことになる。一方で水や元素を抜き取られたプレートは、さらに深くへと沈み込んで行く。

このようなマグマができるカラクリを考えていた僕は、ある時ふと、沈み込み帯が工場(ファクトリー)のように思えてきた。原料である海洋地殻と堆積物がベルトコンベアーのように、プレートに乗って工場へと運び込まれる。工場では、原料から触媒(水)を抽出してマントルを融かし、マグマを作る。そう言えば噴煙を上げる火山はまるで煙突だし、地震は製造工程で発生する震動のようでもある。そしてこの工場の製品が大陸地殻なのだ。

当然ながら、工場からは廃棄物も出る。海洋地殻と堆積物から水と元素を抜き去った残りカス(脱水残査)と、大陸地殻を作る時に必ずできる「反大陸」が廃棄物と言えよう。反大陸とは、もともと玄武岩質であった地殻が安山岩質の大陸地殻へと変化する過程でできる物質である。そこで僕は、この巨大な工場を「サブダクションファクトリー」と呼ぶことにした(図)。略して「サブファク」。今ではこの名は世界中で使われるようになった。

1_サブファク のコピー

でもそのうち、僕は少し心配になってきた。サブファクの廃棄物はどうなるのだろう? ひょっとしてこの工場は、廃棄物を地球内部へ不法投棄して隠蔽してしまっているのではないか? 廃棄物の行方を調べないといけない。(次回へ続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?