なにも期待しないという覚悟で生きる
濁世(じょくせ)には濁世の生き方がある————。コロナ禍で再注目された累計320 万部超の大ロングセラー『大河の一滴』(五木寛之、1998年刊)から試し読みをお届けします。
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私たちは「泣きながら」この世に生まれてきた。私たちは死ぬときは、ただひとりで逝(ゆ)く。恋人や、家族や、親友がいたとしても、一緒に死ぬわけではない。人はささえあって生きるものだが、最後は結局ひとりで死ぬのだ。
どんなに愛と善意に包まれて看(み)とられようとも、死とは自己の責任で向きあわな