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#1 置かれた場所で咲きなさい…今こそ読み返したい「国民的ベストセラー」

今いるところが、あなたの居場所。そこで根を伸ばし、大きく、美しい花を咲かせなさい……。多くの読者に感動を与えた国民的ベストセラー、『置かれた場所で咲きなさい』。刊行から8年がたち、故・渡辺和子さんのメッセージがふたたび光を放ち始めています。心迷いがちなこのご時世、今こそ読み返したい本書から、胸に響く言葉をご紹介します。

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「くれない族」だった私

私は三十歳間際で修道院に入ることを決意し、その後、修道会の命令で修練のためアメリカに行き、修練終了後、再び命令で学位を取り、三十五歳で日本に戻りました。

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次の命令で岡山のノートルダム清心女子大学に派遣され、その翌年、二代目学長の急逝を受けて思いがけない三代目の学長に任命されました。三十六歳でした。

東京で育った私にとって、岡山は全く未知の土地であり、さらにこの大学は、初代も二代目もアメリカ人の七十代後半の方が学長を務めていました。その大学の卒業生でもなく、前任者たちの半分の年齢にも満たない私が学長になったのですから、周囲もさることながら、私自身、驚きと困惑の渦中にいました

修道院というのは、無茶と思えることでも、目上の命令に逆らうことは許されないところでしたから、私も「これが神の思し召し」として従ったのです。

初めての土地、思いがけない役職、未経験の事柄の連続、それは私が当初考えていた修道生活とは、あまりにもかけはなれていて、私はいつの間にか“くれない族”になっていました。「あいさつしてくれない」こんなに苦労しているのに「ねぎらってくれない」「わかってくれない」

自信を喪失し、修道院を出ようかとまで思いつめた私に、一人の宣教師が一つの短い英語の詩を渡してくれました。その詩の冒頭の一行、それが「置かれたところで咲きなさい」という言葉だったのです。

岡山という土地に置かれ、学長という風当たりの強い立場に置かれ、四苦八苦している私を見るに見かねて、くださったのでしょう。

私は変わりました。そうだ。置かれた場に不平不満を持ち、他人の出方で幸せになったり不幸せになったりしては、私は環境の奴隷でしかない。人間と生まれたからには、どんなところに置かれても、そこで環境の主人となり自分の花を咲かせようと、決心することができました。それは「私が変わる」ことによってのみ可能でした。

いただいた詩は、「置かれたところで咲きなさい」の後に続けて、こう書かれていました。

「咲くということは、仕方がないと諦めることではありません。それは自分が笑顔で幸せに生き、周囲の人々も幸せにすることによって、神が、あなたをここにお植えになったのは間違いでなかったと、証明することなのです」

私は、かくて“くれない族”の自分と訣別しました。私から先に学生にあいさつし、ほほえみかけ、お礼をいう人になったのです。そうしたら不思議なことに、教職員も学生も皆、明るくなり優しくなってくれました。

どうしても「咲けない」ときは

「置かれたところで咲く」この生き方は、私だけでなく学生、卒業生たちにも波及しました。

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ノートルダム清心女子大学にも、自分の本意ではなく、この大学に入学した“不本意入学者”がいます。その人たちにいう、「時間の使い方は、そのまま、いのちの使い方なのですよ。置かれたところで咲いていてください」という言葉は、私自身の経験に裏打ちされているからでしょうか。学生たちの心にも響いて、届いてくれるようです。

結婚しても、就職しても、子育てをしても、「こんなはずじゃなかった」と思うことが、次から次に出てきます。そんな時にも、その状況の中で「咲く」努力をしてほしいのです。

どうしても咲けない時もあります。雨風が強い時、日照り続きで咲けない日、そんな時には無理に咲かなくてもいい。その代わりに、根を下へ下へと降ろして、根を張るのです。次に咲く花が、より大きく、美しいものとなるために。

若くして亡くなったキリスト教詩人の、八木重吉の詩に、

神のごとくゆるしたい

ひとが投ぐるにくしみをむねにあたため

花のようになったらば神のまへにささげたい

(「しづかな朝」より“ゆるし”)

というものがあります。

「置かれたところ」は、つらい立場、理不尽、不条理な仕打ち、憎しみの的である時もあることでしょう。信じていた人の裏切りも、その一つです。

人によっては、置かれたところがベッドの上ということもあり、歳を取って周囲から“役立たず”と思われ、片隅に追いやられることさえあるかもしれません。そんな日にも咲く心を持ち続けましょう

多くのことを胸に納め、花束にして神に捧げるためには、その材料が必要です。ですから、与えられる物事の一つひとつを、ありがたく両手でいただき、自分しか作れない花束にして、笑顔で、神に捧げたいと思っています。


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