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小鳥カフェ トリコヤ ⒏インコのジレンマ 連載恋愛小説

「今すごいジレンマ抱えてて」
「はい」
「声を聴いていたいけど、キスもしたい」
じりじりと後ろに移動してみても、すぐにソファにはばまれた。
「喉にこれ以上負担かけたくないけど、さわりたい」
どうすればいいと聞くから、帰りますと言ってみた。
「それは却下」

すでに彼の顔は目の前にあり、息がふれあっている。
「さわらないで、って言ってみて。気持ち込めて」
相反する感情を声から聞き取ろうとしているのがわかり、かの子は
クラクラした。
「キスするな、って。早く」

***

磁石みたいに引き寄せあい、とっくにキスは始まっていた。
初めてのときよりずっと甘美で、こわいくらいだ。
色気なのか気迫なのか、とにかく創史そうしのペースに呑まれている。
それでも少しは抵抗してみたくなり、唇が離れた隙に頭の整理がつかないと伝えてみた。

落ち着き払った表情で、創史はかの子の髪の感触を指と手のひらでめでている。
「オレが飽きるまで付き合うんじゃなかった?」
えええ…と心の中で叫んでも、後の祭り。

「あの話どうなった?」
「え」
「かの子さんが越してくる話」
大幅に情報操作が加えられていて、かの子は笑う。
余裕があると勘違いされ、変に刺激してしまったようだった。

***

かいつまんで報告すると、文ちゃんにはノロケだと評された。
「連絡も電話オンリーで徹底してて、時代に逆行してまして」
「かの子の声も含めて好きなんだって。心配しなくても」
声にしか興味がない疑惑について、こぼしてしまう。
甘えたようなかすれ声にとくに執着されていることは、さすがに相談できなかった。

(つづく)



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