見出し画像

小鳥カフェ トリコヤ ⒙本当のなれそめ 連載恋愛小説 

「わあ、文ちゃんとチョーさんがたわむれてる…」
「ネーミングセンス壊滅か」
「え?変?」
「一周まわって、味わい深いけども」
お店で文鳥タイムを堪能してもらったあと、文ちゃんこと守屋文乃ふみのを我が家へご招待する。

創史そうしを見るなり、ああーっと大声を上げる彼女。
「…は?え…かの子がフェスでナンパした人じゃん」
音楽フェスは未体験なのでなんのことかと思えば、数カ月前に出店した小動物フェスタのことらしい。
「しんどそうだから、差し入れしてくるって」
モールのイベントホールで撤収作業中、フードコートで妙にしゃべりやすいお兄さんと交流したことがあった。

***

「ときに、おにーさん。ハチャメチャにモテそうですね」
「…はあ」
生気のない感じが気になって、かの子は売れ残りのお弁当を強要する。
「で、本人気づいてなくて、スルーしてそう」
「まあ…男とつるんでることが多いですけど」

不審そうにフタを開けてから、しばらく中身を凝視している。
なんの変哲もない王道オムライスと唐揚げ、スプラウト添えポテトサラダ。
「私、来世は男子になりたいんです。ウェーイしたい」
久々に笑ったと言われて、うれしくなる。
「トリコヤっていう小鳥カフェやってます」
「鳥小屋?」
「それ、狙い通りの空耳です。小鳥のとりこで、トリコヤ」

「普通に洋食屋かと思った」
小鳥は連れてこれないので、フードだけ持ってきたこと。
けっこうな赤字だったことなどを話す。
「それにしては、ニコニコしてるっていうか」
「今日はオフ会みたいなものなんで。お店まわって楽しかったし」
手伝いに来てくれた文乃ともSNSで仲良くなったと、たわいのないことをしゃべる。

すると、彼も音楽制作にたずさわっていると明かしてくれた。
「盗作疑惑なすりつけられたうえに、業界干されて酒浸り…とかですか」
「漫画の読みすぎですね」
失礼極まりない発言にただ柔らかく笑う彼は、たしかにお酒ではなくコーヒーを手にしていた。

***

単純に多忙で睡眠もろくにとれず、食事をないがしろにしてきた。
「そんな状態だから、いいもの作れなくて、悪循環」
開店当初、すべてをひとりでやろうとして壊れかけたことがあり、かの子は共感しかなかった。

「たぶん、おにーさんに必要なのは、余白」
「余白?」
「何もしない時間です」
昼寝や散歩、好きなことに熱中して頭をオフにする。
興味深そうに耳を傾けてくれるから、不思議なくらいにスルスルと会話がつながる。

「好きなこと…仕事イコール趣味だから、まずいのか」
「自分をいたわる意識を持ったほうがいいかもです。癒やしを探すとか」
頬杖をついて考えこんでいるさまがあまりに理知的で、
「あ、また脳働かせすぎ」
と何も考えず、かの子はツッコんでしまった。
目を合わせて笑い、そこで会話が不自然に途切れる。

(つづく)










この記事が参加している募集

私の作品紹介

恋愛小説が好き

最後までお読みくださり、ありがとうございました。 サポートしていただけたら、インプットのための書籍購入費にあてます。 また来ていただけるよう、更新がんばります。