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小鳥カフェ トリコヤ ⒚カムフラージュ 連載恋愛小説 

さすがにしゃべりすぎたかと、かの子は居心地悪くなる。
ふと思いついてブースに走って戻り、焼き菓子セットを押しつけた。
「手っ取り早いのは、食なんで」
「オムライスがみたの、初めてだな…」と創史そうし
「ウソ…くさってた?」
顔面蒼白になっていると、また笑われた。

名刺を求められて、ショップカードを渡す。
とっさの行動が、思わぬ宣伝活動につながった。
「かわいいコ、そろってますよ」
「課金しにいきますね。オムライスのお礼に」
心のこもった「ありがとう、ごちそうさま」に、胸がじんわりと温かくなった。

***

「…って、今の今まで忘れてたあ…?エゲツないな」
ご心労お察しします…と文乃ふみのは創史とお辞儀しあっている。
「…え。ほんとにあのときの人…?」
反応オソ、とふたり同時に言われ、初対面の定義がわからなくなった。

眺望の良いテラスにラグを敷き、食後の夜のピクニック。
クラッカーとチーズだけでも、特別なごちそうに思える。
「ところで、佐東氏。声フェチはカムフラージュで、筋金入りの川上かの子フェチとお見受けした」
創史はワインを口に含み、文乃の指摘に口もとだけで笑う。
「鋭いですね」
「天然系は己の威力を把握してないからね。まともに食らったんじゃあ、ひとたまりもない」

うんうんとうなずきながら文乃が飲んでいるのは、ただの水だ。
グラスを間違えたとみえる。
「同じ羽…」
彼の言わんとしていることが、かの子にはすぐわかった。
同じ羽の鳥は群れる、という英語のことわざがある。類は友を呼ぶ、的な。
文乃も十分、天然の素質がありそうだということだ。

「ちょっとなにー?目で会話しちゃって~」
心許せる人ときらめく夜景を見下ろす、ゆったりとしたひととき。
お酒がおいしすぎて、困った。

(つづく)










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