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読書感想 江戸川乱歩 芋虫

久しぶりに読みましたが、なかなかの問題作ですね。これは現代では絶対に発表できない内容だと思います。実際戦時中には販売禁止になっていたようですし。


当時はそのような意識はなかったにしても、現在では放送使用禁止用語となっている差別的表現が多用されています。

具体的には「不具者」「片輪」といった言葉です。
私が看護師になったばかりの頃は、病院や施設には明治生まれの方もいらっしゃいました。その方達から、時折このような言葉を聞くことがありました。

この作品は、戦地で負傷し両手両足を失い、さらに聴力すら失った、まるで「芋虫」のような夫と暮らす妻の物語です。妻は次第に夫を虐げるようになります。

私はホラー好きなので、それほど抵抗なく読めるのですが、人によっては「もう二度と読みたくない」という感想を抱くかもしれないですね。

でも、この猟奇性を帯びた問題作から芸術性が垣間見えるんですね。これは江戸川乱歩の表現力といいますか、描写力といいますか、
ただ気持ち悪がらせたい、怖がらせたい、というのとは別物の「何か」が潜んでいるように思ってしまいます。そのメッセージ性に富んだ「何か」は私の筆力では説明出来ません……。難しいなあ。



私は、閉ざされた環境のなか、圧倒的に無抵抗な存在に対して、次第に加虐的になっていくのは、人間としてある程度自然な成り行きのように思うことがあります。
(全てではありません)

というのも、私も医療従事者として、意思疎通の出来ない寝たきりの高齢者や認知症の方の療養上のお世話をしてきたから、
常に相手に思いやりを持って愛護的なケアを行えるとは限らないことを経験として理解しているからです。相手が家族ならばなおさらかもしれませんね。


肉体的、精神的に余裕がないときは、どうしても細かいところまで目がゆき届かないんですね。

ロボットではない生身の人間は、24時間同じパフォーマンスは捻出出来ないのです。 

 極端なことを言うようですが、日本の殺人事件の半分は親族や家族の間で起こっていることを考えると、介護や育児などは、とにかく密室は避けて、頼れるものは片っぱしから頼ったほうがいいように思います。

色々な家庭の事情がありますよね。
介護される側と同じように介護する側のケアも充分に行われる、個別的な対応を可能とする柔軟な社会環境であって欲しいですね。





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