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掌編小説

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#ホラー

怪奇小品 罪

怪奇小品 罪

 数え四つになる子をおぶっている。やっと生まれた長男であったが、この子は今だ言葉を喋らず、おそらくは唖なのだろうと舅や姑に罵られていた。その子の口元にはほくろがあった。

 五位鷺の鳴き声が響く畦道を子守唄を口ずさみながら歩いた。茜色に染まったこの虚しい空の色合いを私は生涯忘れないだろう。
 雑木林へ入り、草葉の生い茂る難路をひたすら進む。すると道祖神の祀られているひらけたところへ出た。道祖神の隣

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怪奇小品 神

怪奇小品 神

 触らぬ神に祟りなし、という言葉を時折耳にするが、まさしくその通りだと思う。一度始めた信仰は途中で放棄することは出来ない。たとえそれが先祖が祀った神であったとしても、自分たちが意思を持って始めたものではなかったとしても、一度始めたら永遠に身も心も捧げなければならない。何故ならば神を粗末に扱うと障りがあるからだ。だから僕の一族は若い娘を生贄に捧げ続けなければならなかった。そうしないとこっちがやられて

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怪奇小品 蛇

怪奇小品 蛇

 ※この作品は夏目漱石の「永日小品」の中の「蛇」の二次創作です。

 僕は時々瞼の裏に焰が見える。目を閉じると、朱とも橙ともつかない火影が絶えず揺らめいている。その焰はちっとも熱くない。幻想的な色彩を帯びながら、静かに、規則的に、冷酷に、揺らめいている。
 これは一体何なのだろう。
 僕の眼底に刻まれたその焰は、間違いなく僕に何かを告げている。次はお前の番だと警告している。僕はその焰の色彩を感じる

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掌編小説 逢魔が時(ホラー描写が含まれるので苦手な方は注意してください)

6月30日。
私は死んだ。

アパートのロフトに縄をかけ、首を吊って死んだ。私の足を支えていた椅子が倒れた音と、その瞬間にかすかに見えた窓の外の風景ーー、茜色に染った夕焼け空だった。それを妙にはっきりと覚えている。

西日の入るアパートだった。朝は薄暗いが、日が傾くと窓から強烈な陽射しが差し込んだ。このアパートは逢魔が時になると不思議な異空間になった。神秘的な小宇宙だ。そこは眩しいまでの輝きを放ち

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