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【おじいちゃん女優さんと出会う】

いつものように牛頭町のおじいちゃんの家に行く。


いつものように玄関を入り、リビングの座椅子の定位置に座っているおじいちゃんの横に腰を下ろす。


おじいちゃんは
「はなこちゃん、ようお越し、これ食べ」と

いつものように、おじいちゃんのお菓子ボックスを出してくれる。


おじいちゃんのお菓子ボックスとは、時に大きな円柱や直方体の大きな缶に、色々なおじいちゃん好みのお菓子が入っていた。


私は「ありがとう、先に手洗ってうがいしてくるわ」と言って、リビング奥にある洗面台で手洗い・うがいをし「あ~すっきりした~」とほッと一息、リビングのおじいちゃんの横に戻り、腰を下ろした。


おじいちゃんはお菓子ボックスから様々なお菓子を机の上に出して並べてくれていた。

黒糖や黒ゴマ、うずまき等、色々な種類の入った かりんとうや、シンプルなイモケンピだけの入った菓子袋もあった。クッキーやアーモンドチョコもある。色々なおじいちゃん好みのお菓子が今日も勢ぞろいしていた。


「おばあちゃんは?」とおじいちゃんに聞くと、「買い物行くって出かけたんやけどやな、また途中で友達に会って話してるんとちゃうか」と言って笑っている。


私が今日は何のお菓子をいただこうかと、おじいちゃんのお菓子を物色していると、おじいちゃんが、徐に話し出す。


「そやそや、はなこちゃん、この前は大変やったんやで、ちょうど自転車の空気入れてもらいにやな、闇市の自転車屋に行ったんやしな、そしたらなぁ、急に撮影が始まった言うて、出られません言うんやし」


「え、おじいちゃんすごい、撮影って、あのドラマの撮影?え、闇市でも撮ってたん?すご~い、え~~~」


牛頭町のあるみきた市が舞台になっている小説があり、某TV局で、それがドラマ化されることになり、市の城下町の風情宜しく、お城でも撮影がされたと噂には聞いていた。


私は、ワクワクして、「おじいちゃん、それでどうしたん?ずっと待ってたん?」と聞くと


「そうやしな、自転車屋の軒に座らせてもおてな、えらい長いこと待たされたんや」


「え~~、おじちゃん、撮影やったらさ、女優さんとか見た?俳優の♡♡は?居た?」と興味津々で聞くと、おじいちゃんは、「見たで。」と言うのである。


「え~~~~おじいちゃん、すごっ、え、誰見たん?カットとか言われてた?」とミーハーな私は興奮が止まらない。「それがやな、自転車屋の大将が、自転車屋の2階が控室になってる言うてやな、
多分女優さんやと思うけど、色の白い女の人が二人入ってきたんやし。誰か知らんけど」という。


「え、すごいすごい、誰?誰やろ、●●と◆◆かな。え~すごい、すごい」私はお爺ちゃんが誰を見たのかを知りたくて聞くのだが、おじいちゃんは的を得ない。


「え~おじいちゃん、●●はドラマ△△に出てた人でさぁ、覚えてない?ほかに何に出てたかなぁ~」と●●と◆◆さんの出ていたCMやドラマのことを話すのだが残念ながらおじいちゃんの特定にはいたらなかった。


それでも私はとても羨ましく、「え~いいなぁ~私も見たかったなぁ、誰やったんやろ、綺麗やった?」と聞くと、


おじいちゃんはニヤリとし
「きれいやったで。」と力強く言った。


「そらぁ、色が白うてな、きれいやったわ。だれか知らんけど。」


「え~~~~~~~~いいな~~~」と私が興奮冷めやらずにいると、


「おじいちゃんな、階段上がっていくその女の人らに、ちょっと、あんた、女優さんけ?」って聞いたんやし


「え、おじいちゃん聞いたん??そのゴリゴリのみきた弁で?聞いたん?その人何て?」


「何にも言わんと、サササササッと俯いて二階にあがっていったわ 笑」


「え~残念~誰やったんやろ~」ひとしきり私が、私も女優さんに会いたかった、うらやましいと繰り返し、おじいちゃんを見ると、おじいちゃんの顔がほころんでいた


「え、でもおじいちゃん物置に空気入れなかった?あったでな?」私はふと、物置に空気入れがあったことを思い出し聞くと、
「自転車屋やったらな、自動でシューーーーーっと入れてくれる機械があるから楽なんや。」とおじいちゃんは言った。


はは~ん、さては自転車屋さんの空気入れを口実に、おじいちゃんは撮影を見に行のだなと、そのおじいちゃんの様子に私は確信した。

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