【vol.023編集後記:03】

 職場取材は編集部として重視しているものなので、できれば協力してもらいたいとお伝えしたところ、そこは理解をいただけてやらせてもらえることになり、まずはひと安心。いざ取材してみると、期待以上に内容の濃い取材ができました。自分ではかなり手ごたえを感じる内容だったのですが、果たして読者の皆さんにそれが伝えきれていましたでしょうか。


 渡辺さんの勤めるJCBに取材協力がいただけるかどうか、多少の不安はありました。取材協力依頼も渡辺さん経由でしたし、どうなることかと思っていましたが無事OKをいただくことができ。しかも現在の在籍部署の方のほか、採用担当の方にもお話を伺いたいとのお願いにもご協力をいただけて。こちらが実施したいと考えていた内容には全部お応えいただけたのは、本当にありがたい限りでしたね。

 取材の打ち合わせをする中で、渡辺さんが職場で充分配慮、調整を受けられているのはわかっていました。渡辺さん自身も職場に満足しているようでしたし、「さすがに誰もが知るような大企業だけあるな」と思いつつの取材でしたが、本紙にも掲載の通り、実はそれまで視覚障害者の採用実績がなかった、と伺った時には驚きました。そしてそれ以上に、採用実績がなかったのにも関わらずとてもスムーズに渡辺さんを受け入れられていたのにも驚かされました。

 編集部では結果的に障害者雇用の進んでいる企業ばかり取材してきたので、ともすると忘れがちになるのですが、世の中まだまだ「そうではない企業」の方が多いのだろうと思います。「そうではない企業」について取材するのは難しいので、人づてに聞いた話や公開されている調査結果を元にした考察になってしまうのですが、障害者の採用実績がない企業や積極的に取り組めていない企業は、やはり障害者雇用に対してハードルを感じていたり「何かかできない人」のイメージを強く持っているように感じます。障害者を採用し迎え入れるにあたっては、さまざまな「犠牲」を払わなければならない、と思い込んでいる企業が残念ながらまだ多くあるのだ、と思い知らされる機会は少なくありません

 そういう中でJCBの方々が渡辺さんに対し、とてもフラットな接し方や配慮、調整をされているのには驚かされました。それができないから「そうではない企業」がまだまだ多いわけで、採用実績があるかないか、社内に専門知識を持つ人材がいるかいないか、それを理由に障害者採用に二の足を踏んでいるのだ、という位置どりを継続しているのだろうと思うので。

 それができない企業、組織がまだ多くある中で、「なぜ採用実績に乏しくてもすんなりと受け入れができたのか」を知りたいなと思い、いろいろと聞いてはみたのですが、結局明確な回答は引き出せませんでした。というより、はじめからできている人たちに理由を聞いても「答えようがない」ということなんだろうと思います。むしろ「なぜできないの」と聞き返されてしまう類の質問、ということなのでしょう。

 なのでここも自分なりに考察してみるしかないのですが、それはきっと多様性の理解がすすんでいる、自然にできているということなんだと思うのです。〇〇障害だからこうしなきゃいけない、といった考えではなく、自分と何がどう違うのか、ならばどうするのがお互いにとって望ましいのか。そういう視点を誰に対しても持てている、そんな風に感じました。そしてそれは、たまたまそういう視点を持った個人が寄り集まった、というのは考えにくいので、おそらく社内風土として元からあるものなのでしょう。会社の論理や画一的な働き方を一方的に提示するのではなく、個人が社内で活かされていくためにどうすべきか、を常に考える会社なんだろうなというのが、取材を終えての感想です。

 結果としてはとても実りある取材になった、手応えを感じる号になりました。これまでは「障害について知ろうとしないと、どう接していくのが良いのかわからないままなんじゃないか」と考えていました。でも今回の取材を通じて、今は必ずしもそうではないと思えます。障害だけを意識しなくても、もっと大きなくくりで人と人との違いを認識し認め合えるようにはできるんじゃないかと感じられたのは、大きな収穫だったと言えます。さてそのあたりが紙面を通してうまく伝わっていればいいのですが、どうだったでしょうか。


■「gente」の発行を、皆様の力で支えてください。
さまざまな障害について知る機会を、誰にでも読んでもらえるフリーペーパーで継続発信することに大きな意味があります。多くの人に、今はまだ無関心な人にも社会にあるさまざまな障害について知ってもらうため「gente」の発行を応援してください。
ご支援は下記より任意の金額で行うことができます。

■「gente」定期便とバックナンバー

vol.023を読んでいない方、読んで見たいなって方はこちらからお取り寄せできます。ぜひ本紙「gente vol.023」とあわせてご覧ください。お近くの配架先かお取り寄せを利用して「gente」を読んでから、こちらの「note」を読んでいただけたらうれしいです。


vol.023の編集後記はここまで。
次の更新はvol.024の発行後、vol.024の本紙未掲載記事からになります。
vol.023の読後感想などはこちらの掲示板に投稿いただくか、直接編集部まで下記フォーム、またはメールで送っていただければ、今後の励みとなりますのでぜひよろしくお願いします。

【ご感想投稿フォーム】


この記事が参加している募集

多様性を考える

SDGsへの向き合い方

gente編集部へのサポートをお願いいたします。サポートは「gente」の発行費用および編集部の活動費用として活用させていただきます。