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【vol.024 後藤さん未公開インタビュー:「自分でどうにかするしかないと」】

 vol.024後藤さんの未公開分インタビュー、辛い時期を過ごしていた後藤さんの、当時の行動や気持ちについて語っていただいていました。

 派遣社員として働いていた頃、「正社員になりませんか」という話を断らざるを得ないほど、外出への不安が強かった後藤さん。それでもなかなか通院、治療には至らず苦しい時間を過ごしていました。


後藤:病院に行って治るのかって、パニック障害の人が書いた本を読んで、病院に行って薬を飲んでも3駅ぐらいしか電車に乗れない、っていうのを読んで「いや私、頑張れば3駅行けるから」と思いました。薬を飲んでもその程度なら、薬を飲む方がリスクがあるみたいに思ってしまって。「病院に行ったら治る」っていう希望を持てなくなってしまったんですね。

g:もともと漠然と持っていた薬への不安があったところに、本を読んで「大きな効果は期待できない」と感じて。病院に行けずにいたんですね。

後藤:病院に行って薬飲んでも、今以上良くならないような気がして。「どうせダメなんだ」みたいな感じが強かったですね。

g:でもそれでは、八方塞がりの状態ですよね。

後藤:そうですね、ハローワークでやっている職業訓練にも行きたくてもいけないだとか、全部が八方塞がりって感じで。

g:どうしようもない中で、自分なりにどうにかしないと、と思っていたんですよね?

後藤:図書館に行って本を読む、少しでも気持ちを改善するような本を読むとか、そういうことで保っていた感じですね。

g:病院に行けない以上「自分でどうにかするしかない」との思いで、病気について調べていたんですね。出かけられる範囲がどんどん狭くなっていくことに対しても、やはり同じように「自分でどうにかしないと」との思いで外出の練習をされていたんですか?

後藤:はい。どこかに行きたいとか、怖い方が先で行きたい所はないんですけど「このままじゃいけない」と思って、電車に乗って川崎とか上野とか横浜とか、目的はないんですけど行って。でも行く所、目的地はないんで一旦降りて駅の中でお茶飲んだりして、またちょっと落ち着いたら「もう一駅行ってみよう」っていう感じで行くは行くんですけど、目的地がないんで充実感もなくて、時間とお金使ってるだけだなと思って。何してるんだろうな、って思ってましたね。

g:もちろんそれで外出範囲が広がるとか、何か結果が出るわけではないでしょうしね。とにかく「なんとかしたい」という気持ちはずっとあったと。

後藤:ずっとありましたね。はい。そういう風にしている間に家が引っ越すことになって、そのタイミングで「もうダメだ」と思って、もっと八方塞がりになっちゃうと思って病院に行きました。2回引っ越したんですけど、1回目の引っ越しの時には処方された安定剤を飲むように決心して、2回目の引っ越しの時には、うつ病の薬を飲むようになったんですけど。

g:でもその安定剤では、症状は改善しなかった。

後藤:そうですね。それでお医者さんを変えて「パニック障害に効く薬を」とお願いしたんですけど「後藤さんの不安が強くて、そんな薬じゃ治らない治らない」なんて言われてて。そう言われちゃったら、どういう風にしていいのかわかんなくて。ちょうどその頃に、私のことでストレスを感じていた母に、はけ口が必要なんじゃないかと思って受診を勧めたメンタルクリニックの先生が、私の話もしっかり聞いてくれたんです。

g:その先生とはどのぐらいの時間お話しできたんですか?

後藤:20分ぐらいだったと思うんですけど、しっかり話を聞いてくれる感じ。他のそれまでの先生とは全く違って、ひとつひとつ聞いてくださったのを覚えていますね。

g:その先生と巡り合って、薬に対しての不安感もなくなった。

後藤:そうですね。薬も最初は一錠から始めるものも、怖いのであれば4分の1からにしましょうと提案してくださって。

g:そういうことも話せたんですね、薬を飲むのが怖いんですと。

後藤:薬は怖くて、でも治したいんで薬の悪い情報じゃなくて、いい情報だけくださいみたいなお願いもしました。そうしたら「大丈夫ですよ」っていろいろいい情報をくださって、薬も多くなく少しずつ、っていう感じで。

g:それで薬も飲めるようになったと。薬の種類も変わったんですか?

後藤:そうですね。変わりました。

g:自分で調べた薬を処方してくれるように頼んだんですか?

後藤:いや、何も言わなかったんですけど、症状を話したら「もっといい薬、3駅しか電車に乗れないような薬じゃなくて、もっといい薬がありますよ」と言われて。先生の言う通りの薬を処方してもらいました。

g:すぐに服薬の効果は実感できましたか?

後藤:そうですね。それまですごく不安だったことが取れていって、動けるようになって。

g:通院と服薬によって、かなり改善があったようですね。薬を飲むことへの不安感も、その先生と対話で解消したんですか。

後藤:そうですね。それまで薬もひとつの薬しか知らなかった、本で読んだ薬、それを飲んで3駅電車に乗れるようになった人の本で読んだ薬しか知らなかったんです。その話を先生にしたらもっといい薬があるんですよ、と教えてくださって。


「このままじゃいけない」と、行くあても目的もなく電車に乗り、外出の練習をしていた後藤さん。何とかしようと自分なりに考えて、必死に抗おうとしていましたが、結果として虚しさを突きつけられるだけの苦しい日々を送っていました。
八方塞がりの状況に長く取り残されていた後藤さん。「今思えば、自分自身の頑なさが治療を遠ざけていたのかもしれない」とも語っていましたが、精神障害に対し今より強い偏見があった二十数年前、それも仕方がなかったのでしょう。ですが今は世間の認識もアップデートし、診療や薬の処方なども進歩しています。偏見にさらされることなく、いち早く適切な治療にたどり着ける環境が大切なのだろう、と痛感させられるエピソードでした。


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vol.024の未公開分インタビューはここまで。
次回からは編集後記を不定期更新していきます。

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