川村元気 Genki Kawamura

小説家・フィルムメーカー。小説『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』…

川村元気 Genki Kawamura

小説家・フィルムメーカー。小説『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』『百花』『神曲』、対話集『仕事。』『理系。』等を上梓。映画『告白』『悪人』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』『怒り』『すずめの戸締まり』『怪物』等を製作。genkikawamura.com

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この小さくプライベートな部屋では、僕が日常生活の中で「気づいたこと」を物語だったりエッセイだったり、そのどちらでもない不思議な読みものだったりにして、お届けしたいと考えています。メンバーとコミュニケーションしながら、自分が作ってきた映画や小説の創作裏話、最近作っている映画や小説のメイキング的な読みもの、衝撃を受けた作品の映画評、クリエイティブQ&Aなどもお届けできたらと。Q&Aは、映画やアニメを作りたい人、小説を書きたい人、音楽やアートや芝居などの表現する仕事をしたい人はもちろん、それらを観たり聴いたりすることが好きな方々とも気さくにやれたらと思っています。人数が少ないうちは、ひとり一問は答えたいなと思っています。時には、読書会やサイン会、試写会を兼ねたトークショー、クリエイターゲストとの対談、のようなイベントで、メンバーとクリエイティブについての答え合わせなんかもやれたらと思います。 ●入場料は月2000円です●エッセイや物語を月2〜3回お届けします●クリエイティブQ&A(人数が少ないうちは、ひとり一問は必ず答えます)●年に2〜3回、川村元気が企画するイベントにご参加いただけます。

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第5話 四月になれば彼と彼女は

「 恋愛小説を書いてみようと思うんです」 『世界から猫が消えたなら』『億男』の二作を書いた後、編集者に相談した。 「あー最近、売れないんですよね、恋愛小説」 意外な答えが返ってきた。 なぜ? 恋愛小説はベストセラーの定番だったはずなのに。 謎を解くべく、周囲に聞いて回った。 「最近どんな恋愛をしていますか?」 「彼氏とか彼女とかいたことないし、いらない」学生たちが平然と言う。 「結婚どころか、最近は好きな人すらできない」仕事仲間がつぶやく。 「結婚したけれど、愛が情に変わ

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    • 第24話 背中を見て

      映画『ルックバック』に胸を貫かれた。 夕方にひとりで訪れた映画館の片隅で、なにかを創ることの尊さと残酷さを存分に味わいながら涙した。 漫画の才能に自信を持つ小学生の藤野と、家に引きこもりながら彼女の漫画を楽しみに待つ京本。実は高い絵の才能を持つ京本と藤野は、卒業を機にコンビを組み漫画家になっていくが……。 3年前、藤本タツキによる原作漫画を読んだ時、その天才ぶりに打ち震えた。 それは創ることの真実に迫った文学であり、完璧なカット割で構築された映画であり、緻密に描かれたア

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      • 第23話 罪といちごミルク

        これは、僕が小学校に入ったばかりの頃の記憶。 土曜日、学校が早く終わり同級生Kの家で遊んでいた。 彼の両親は共働きで、家にはKと僕以外には誰もいなかった。 ミニ四駆を走らせ、テレビを見て、ファミコンで遊んでいるうちに西陽が窓から差し込んできた。 「はらへったな……」 Kは窓外のオレンジ色を見ながら呟いた。 その顔が、妙に寂しげだったことをよく覚えている。 「そうだね」 それほどお腹は空いていなかったが、同意した。 そうしないといけないような気がしていた。すると彼は、

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        • 第22話 岩井俊二の魔法と、上海映画祭

          山田尚子監督と時間をかけて丁寧に作ってきた映画『きみの色』がいよいよ2カ月後、8月30日に公開となる。 先がけて上海映画祭にてアジアプレミアを果たし、アニメーション部門の最優秀作品賞を受賞することができた(めでたい)。 上海映画祭を訪れるのは映画『世界から猫が消えたなら』の中国プレミア以来、8年ぶりだったが、その規模も熱気もさらに増していて中国映画界の勢いを感じた。 受賞以外にも、幸運なことがあった。 映画『空の青さを知る人よ』で仕事をした吉沢亮くんに久しぶりに会えたこと

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        第5話 四月になれば彼と彼女は

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          第24話 背中を見て

          映画『ルックバック』に胸を貫かれた。 夕方にひとりで訪れた映画館の片隅で、なにかを創ることの尊さと残酷さを存分に味わいながら涙した。 漫画の才能に自信を持つ小学生の藤野と、家に引きこもりながら彼女の漫画を楽しみに待つ京本。実は高い絵の才能を持つ京本と藤野は、卒業を機にコンビを組み漫画家になっていくが……。 3年前、藤本タツキによる原作漫画を読んだ時、その天才ぶりに打ち震えた。 それは創ることの真実に迫った文学であり、完璧なカット割で構築された映画であり、緻密に描かれたア

          第24話 背中を見て

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          これは、僕が小学校に入ったばかりの頃の記憶。 土曜日、学校が早く終わり同級生Kの家で遊んでいた。 彼の両親は共働きで、家にはKと僕以外には誰もいなかった。 ミニ四駆を走らせ、テレビを見て、ファミコンで遊んでいるうちに西陽が窓から差し込んできた。 「はらへったな……」 Kは窓外のオレンジ色を見ながら呟いた。 その顔が、妙に寂しげだったことをよく覚えている。 「そうだね」 それほどお腹は空いていなかったが、同意した。 そうしないといけないような気がしていた。すると彼は、

          第23話 罪といちごミルク

          第22話 岩井俊二の魔法と、上海映画祭

          山田尚子監督と時間をかけて丁寧に作ってきた映画『きみの色』がいよいよ2カ月後、8月30日に公開となる。 先がけて上海映画祭にてアジアプレミアを果たし、アニメーション部門の最優秀作品賞を受賞することができた(めでたい)。 上海映画祭を訪れるのは映画『世界から猫が消えたなら』の中国プレミア以来、8年ぶりだったが、その規模も熱気もさらに増していて中国映画界の勢いを感じた。 受賞以外にも、幸運なことがあった。 映画『空の青さを知る人よ』で仕事をした吉沢亮くんに久しぶりに会えたこと

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          第21話 無関心を映画にする

          『関心領域』を観た。 ちょっと言葉を失うくらいの凄まじい映画だった。 去年『怪物』でカンヌ入りしたときに、メディアや批評家たちが「とんでもない作品がある」と口々に言っていた。 これは強烈なライバルになるぞ……と、その評論から目を離せなかった。 『The Zone Of Interest』 誰もが知るジャミロクワイのミュージックビデオ『ヴァーチャル・インサニティ』(床が滑るアレだ)の監督であるジョナサン・グレイザーが、アウシュビッツの隣で優雅に暮らすドイツ人たちを描いている

          第21話 無関心を映画にする

          第20回 思い出がキャラクター

          「この古い自転車、どうします?」 背後から、自転車屋の店主の声が聞こえた。 家のそばの商店街に昔からある自転車屋の店主は、その真っ黒になった人差し指で、僕が乗ってきた小さな自転車を指差している。 生まれて初めて買ってもらった自転車は、銀色の無骨な車体のものだった。 そっけないデザインだけれど、それがどこかメカらしさを漂わせていて気に入っていた。 毎日暇さえあれば乗り回し、どこにいくにも一緒だった。 3年が経ち、僕の身長は20センチ伸びた。 あれだけ大きく感じていた自転車

          第20回 思い出がキャラクター

          第8回 Q&A クリエイティブを守るために

          A.GK 『仕事。』を愛読していただきありがとうございます。 『仕事。』は僕が仕事に悩んでいた30代の時に「いまだに現役で楽しそうに仕事をしている巨匠たち」と作った本です。 どうやって不調や困難を乗り越えて、仕事を面白くしていったかを聞いて回ったその対話集は、僕にとってもとても大切な本で、いまだに仕事や人生に悩んだ時に読み返します。 面白いことに、ほとんどの解決策がそこに書いてあるのです。 僕自身、今まで気づいていなかったこと、忘れてしまっていたことなどが、毎回読むた

          第8回 Q&A クリエイティブを守るために

        記事

          第21話 無関心を映画にする

          『関心領域』を観た。 ちょっと言葉を失うくらいの凄まじい映画だった。 去年『怪物』でカンヌ入りしたときに、メディアや批評家たちが「とんでもない作品がある」と口々に言っていた。 これは強烈なライバルになるぞ……と、その評論から目を離せなかった。 『The Zone Of Interest』 誰もが知るジャミロクワイのミュージックビデオ『ヴァーチャル・インサニティ』(床が滑るアレだ)の監督であるジョナサン・グレイザーが、アウシュビッツの隣で優雅に暮らすドイツ人たちを描いている

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          第20回 思い出がキャラクター

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          第20回 思い出がキャラクター

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          第8回 Q&A クリエイティブを守るために

          A.GK 『仕事。』を愛読していただきありがとうございます。 『仕事。』は僕が仕事に悩んでいた30代の時に「いまだに現役で楽しそうに仕事をしている巨匠たち」と作った本です。 どうやって不調や困難を乗り越えて、仕事を面白くしていったかを聞いて回ったその対話集は、僕にとってもとても大切な本で、いまだに仕事や人生に悩んだ時に読み返します。 面白いことに、ほとんどの解決策がそこに書いてあるのです。 僕自身、今まで気づいていなかったこと、忘れてしまっていたことなどが、毎回読むた

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          第19話 北京の四月

          5月18日、つまり今日、中国で『四月になれば彼女は』が公開される。 中国で公開される日本映画は年に数本。 その一本に選ばれたことを嬉しく思う。 小説そして映画が、中国で広く楽しんでもらえることを願っている。 先週、スタッフ・キャストを代表して、佐藤健とふたりで北京キャンペーンに行ってきた。 熱狂とカオスの2日間を振り返りつつ、中国と日本のエンタテインメントについて考えた。 初日。 羽田空港に佐藤健がなかなか現れず、スタッフがやきもきする。 それもそのはず。 彼は直前までN

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          第19話 北京の四月

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          第18話 藤くんの声

          先週、久しぶりにBUMP OF CHICKENのライヴに行った。 彼らの曲を聴くと、学生時代の気分にすぐに戻れる。 『天体観測』を藤原基央が書いていたとき、僕はまだ田舎の高校生だった。 僕と誕生日がひと月しか変わらない彼は、遥か彼方にある星のようだった。 あの頃からもう四半世紀が経ったけれども、彼が歌う『天体観測』はまったく古びず、青くてキラキラしたままで、いつでも僕らをタイムトラベルに連れ出してくれる。 アニメーション作品『血界戦線』『ベイビーアイラブユーだぜ』『GO

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          第18話 藤くんの声

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          第17話 長澤まさみと坂本弥生

          自分にとって転換点となる作品には、いつも長澤まさみがいた。 『告白』『悪人』の後、自分の映画づくりの方向性をがらっと変えて、音楽を中心に据えた映画『モテキ』に大根仁監督と取り組んだ。 そのとき、長澤まさみに出演を依頼した。 『世界の中心で愛をさけぶ』の清純なイメージからすると、まるで印象の違うチャレンジングな役。周囲に出演を懸念する声も多かった。けれども彼女は思い切ってオファーを受け、振り切って演じてくれた。 結果観客は長澤まさみの新しい顔を発見し、その衝撃が映画を大きな

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          第17話 長澤まさみと坂本弥生

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          第16話 佐藤健と藤代俊

          佐藤健と初めて会ったのは、十年前だ。 映画『バクマン。』の現場で顔を合わせた。 人見知りな様子で、前髪の隙間から黒目をキョロキョロと動かし、観察するようにまわりを見ていた。 だが僕が話しかけると、忙しなく動いていた黒目がぴたりと止まり、じっと僕のことを見つめた。 まるで猫のような青年だなと、思った。 そのときふと、これからこの俳優と長く一緒にいることになるのではないかと予感した。 予感は現実となった。 『バクマン。』『世界から猫が消えたなら』『何者』『億男』『竜とそばか

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          第16話 佐藤健と藤代俊

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          第7回Q&A 『四月になれば彼女は』編

          映画が公開され、小説そして映画の感想や、それぞれの違いについての質問などを、たくさんお寄せいただいています。すべて目を通しています。創る力をもらえます。嬉しいです。 『物語の部屋』メンバーシップの方々からの質問のほかに、先日のnoteのイベント『小説を映画にするということ』に向けてお寄せいただいた質問のなかでお答えできなかったもののいくつかにも、今回のクリエイティブQ&Aにてお答えしていければと思います。 A. GK 原作小説において藤代とハルを引き裂く登場人物として、写真

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          第7回Q&A 『四月になれば彼女は』編

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          第15話 海も、月も、心も、満ちてゆく

          映画『四月になれば彼女は』が公開初日を迎えた。 好調なスタートのようで、佐藤健の誕生日とあわせて、スタッフ、キャストと皆でお祝いできたことが、なにより嬉しかった。 映画がきっかけで原作小説を読んでくれた方も多く、感想をいただくことも増えた。 小説を書いたきっかけはこちら(第5話 四月になれば彼と彼女は)に綴った。映画を観る前でも観た後でも、読んでもらえたら嬉しい。 そして映画や小説の感想はこちらから。次の創作の糧とさせてもらいます。 今回印象的なのは、小説を読んだり

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          第15話 海も、月も、心も、満ちてゆく

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          映画『四月になれば彼女は』公開記念トークイベント「小説を映画にするということ」のお知らせ(全文無料公開)

          3月22日より、映画『四月になれば彼女は』が公開されます。 ついに、あと1週間となりました。 以前、『小説を映画にするということ』というテーマでnoteを書きました。 小説『四月になれば彼女は』がどうやって脚本、そして映画になっていったのか。山田智和監督と俳優のあいだにどんなやりとりがあったのか、今村圭佑さんはどのように撮影したのか、小林武史さんの音楽や、藤井風さんの主題歌がどのように生まれたのか。 映画公開後どこかで話せれば、と思っていたら、note社がその場を用意し

          映画『四月になれば彼女は』公開記念トークイベント「小説を映画にするということ」のお知らせ(全文無料公開)

          新作小説『私の馬』発表に寄せて(小説冒頭掲載)

          国道に、馬がいた。 そんな書き出しから始まる小説を書いた。 二年ぶりの新作となる。 タイトルは『私の馬』。 僕の人生において大きな気づきを得たいくつかの”言葉”がきっかけとなり、この小説を書くに至った。 今日はそのひとつについて書けたらと思う。 「今ってさ、人類史上最も”言葉”を使っている時代らしいよ」 数年前、友人のミュージシャンがそんなことを言っていた。 小説が売れない、と嘆かれている状況に反して人間が触れる言葉自体は増えているのだと彼は言う。 「ネット、スマホ

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          第14話 写らないものを撮る

          まったく上手くならないけれど、フィルムで写真を撮るのが好きだ。 高校生の時にNikonのフィルムカメラを、こつこつと貯めていたお小遣いで買った。それから色々なデジタルカメラを使ったりもしながらも、結局フィルムに戻ってくる。 このnote『物語の部屋』も自分で撮った写真を載せている。 そのほとんどがフィルムだ。 小説『四月になれば彼女は』はフィルム写真の物語でもある。 藤代とハルは、大学の写真部で出会う。 「写らないものを撮りたい」 どんなものを撮りたいのか? という藤

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