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第19話 北京の四月

5月18日、つまり今日、中国で『四月になれば彼女は』が公開される。
中国で公開される日本映画は年に数本。
その一本に選ばれたことを嬉しく思う。
小説そして映画が、中国で広く楽しんでもらえることを願っている。

先週、スタッフ・キャストを代表して、佐藤健とふたりで北京キャンペーンに行ってきた。
熱狂とカオスの2日間を振り返りつつ、中国と日本のエンタテインメントについて考えた。

初日。
羽田空港に佐藤健がなかなか現れず、スタッフがやきもきする。
それもそのはず。
彼は直前までNetflixシリーズドラマ『グラスハート』のライブシーンを撮影していた。

偶然なのか必然なのか、撮影場所はZepp Haneda。
ライブ会場から飛び出して、ぎりぎりに飛行機に駆け込んだ。

北京についたのは深夜だったが、中華料理を食べたいと佐藤健。
このあたりの好奇心は相変わらず旺盛だ。
北京ダックを食べながら、翌日の取材の打ち合わせ。

中国の取材や舞台挨拶の積み方は、かなりタフで朝から晩までみっちり行う。
舞台挨拶は連続して5回(当初は10回! だったがさすがに減らしてもらった)。
中国の俳優や監督はこれをさらりとこなすのだから、凄まじい。

翌日、僕と健が別れてそれぞれの取材。
いまの中国はSNSやインフルエンサーの影響力がかなり強くなっていて、それらを意識したメニューに様変わりしていた。

インタビューを受けながら、記者と対話する。
「思ったことを言えない」というのが、『四月になれば彼女は』の登場人物たちなのだが、日本的なこのラブストーリーについて、「思ったことはすべて伝える」という中国の記者からはカルチャーギャップも含めて、いくつか質問を受けたりした。

しかしながら、中国でも「恋愛」や「結婚」に対する価値観はここ数年で劇的に変化していて、それらは「もはや無くても構わない」という人も増えているという。国は違えど、同じような悩みや痛みを抱えているのだと感じた。
インターネットやAIがどれだけ発達しても「人は自分のことだけはわからない」というテーマも通底しているような気がした。
物語を通して、お互いの国の違いや共通点を確認できるのは、小説や映画のつくり手として最上の喜びだ。

午後、舞台挨拶で健と合流。
なんとシネコンが貸切になっている。
映画館全体に『四月になれば彼女は』の桜の装飾(キリンもいた!)がされ、すべてのシアターで試写会が同時に行われている。
やはり規模が違う。

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