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第16話 佐藤健と藤代俊

佐藤健と初めて会ったのは、十年前だ。
映画『バクマン。』の現場で顔を合わせた。

人見知りな様子で、前髪の隙間から黒目をキョロキョロと動かし、観察するようにまわりを見ていた。
だが僕が話しかけると、忙しなく動いていた黒目がぴたりと止まり、じっと僕のことを見つめた。

まるで猫のような青年だなと、思った。
そのときふと、これからこの俳優と長く一緒にいることになるのではないかと予感した。

予感は現実となった。
『バクマン。』『世界から猫が消えたなら』『何者』『億男』『竜とそばかすの姫』そして『四月になれば彼女は』と、彼と十年間ずっと一緒にいた。

映画『四月になれば彼女は』は、彼との十年間があったから生まれた作品だ。

ちょうど映画『世界から猫が消えたなら』の撮影をしている時に、僕は小説『四月になれば彼女は』を書いていた。

撮影現場で小説を書いている間、ずっと佐藤健が隣にいた。
気づけば、藤代俊という主人公が彼に重なっていた。

そして小説が完成した時に、真っ先に佐藤健に読んでもらった。
「川村作品で一番好きです」
と彼は言ってくれた。

十年間の集大成がいま、やっと映画館にたどりついた。
桜のように刹那の映画興行。
ぜひスクリーンで、見届けてもらえたらと思う。

『四月になれば彼女は』の映画作りは、脚本の段階から佐藤健と話し合いながら進んだ。

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