第24話 背中を見て
映画『ルックバック』に胸を貫かれた。
夕方にひとりで訪れた映画館の片隅で、なにかを創ることの尊さと残酷さを存分に味わいながら涙した。
漫画の才能に自信を持つ小学生の藤野と、家に引きこもりながら彼女の漫画を楽しみに待つ京本。実は高い絵の才能を持つ京本と藤野は、卒業を機にコンビを組み漫画家になっていくが……。
3年前、藤本タツキによる原作漫画を読んだ時、その天才ぶりに打ち震えた。
それは創ることの真実に迫った文学であり、完璧なカット割で構築された映画であり、緻密に描かれたアートであった。
『チェーンソーマン』(大傑作)を描き終えた後に、真逆の静謐な傑作を生み出す藤本に畏怖の念を抱かざるを得なかった。
これほどまでに完璧な漫画を、どうやって映画にしたらいいのか。
きっと映画の作り手たちは途方に暮れたに違いない。
監督の押山清高とは、Eveのミュージックビデオ『平行線』のキャラクターデザイナー・作画監督として密に仕事をした。キャラクターが生々しく呼吸している様を「描く」のが本当に巧みなアニメーターだなと舌を巻いた。
そして今作にて、満を辞しての監督デビュー。
原作における「描く」という行為が、凄腕アニメーターによって「描かれる」ことでさらなる高みにたどり着いた。
この映画はタイトル通り、後ろ姿をたくさん見せられる。
漫画を描いている時の背中、あぜ道を歩いている時の後ろ姿。顔は見えないけれど、それらに呼吸を感じる。
後ろ姿を見て、振り返り、思い出す。
『ルックバック』という言葉がもつ多義性が、58分の映画体験のなかに詰め込まれる。