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048_A Tribe Called A Quest 「We Got It from Here... Thank you 4 your Service」

全くなんて今回筋に悪い案件だ、自分でもこういう案件を引き当てちまう自分の悪運と引きの強さにうんざりする。

いるんだ、周りにもどこ行っても、これまでずっと静かだったのに、いきなりソイツが来た途端、急に炎上案件を引き当てちまうやつ。まあこんなこと、どこにでもある話ではあるが、自分の前には決してやってきてほしくない案件っていうものがあるもんだ。そいつはいつも、死神みたいに鎌を構えていつでもそいつの首に振り下ろせるように、背中の後ろ側に立って笑ってやがるんだ。

こういった時の対処法はひとつしかない。転がる石に苔はつかない。ひたすら、目の前の石を転がし続けるしかない。止まって絶対に石を抱え込んじゃダメだ。ひたすら必死になって石を転がし続けるしかないんだ。後ろを振り返ったり、自分のいる場所なんて確認してちゃダメだ。動くんだ。死神に首を掻っ切られちまう前に。それが、俺がなんとかここまでやってきた処世術ってやつだな。

人はいつか死ぬ、死ぬ前に消えゆく意識の中で、ソイツがどんなことを死際で思い浮かべるか、石を転がし続けていたか、それとも抱え込んじまっていたか、はたまた誰にも追い立てられず、自分で石を磨き上げて玉(ここでは宝石の意)にでも変えちまったか、それはそいつの生き方次第だ。

しかし奴は、今まで俺が見てきたタイプとは違う気がする。うまく石を転がすようでも、抱え込むようなタイプではない。どうする気だ、一体、どうやってシマをサバくつもりなんだ。俺も奴のやり方には興味が湧いた。というか、奴の挙動そのものが気に入った。まず、目つきが獣のように鋭い。目で大体のやつがどんなタマかなんてものは、察しがつくんだ。俺はこの目でこの街でいろんな奴の目を見てきたが、あいつのような目ははじめてだった。

この街では、何より情報がものをいう。だから俺らみたいな情報屋稼業は、自分らのシマを決めてそこでのネタについて、聞き耳漏らさず上にあげるようにしてている。この街は俺の所属している組織を含めて、有力な複数の組織の力関係の絶妙なバランスで成り立っていた。仮にそれらをAlfa、Bravo、Charlie、Deltaと呼ぶことにしよう。

Alfaは、俺がいる組織だ。この街じゃ可もなく不可もなくってとこだが、ただタマ(人)だけが、多いっていう何の変哲もない組織だ。Bravoは、(まったく役に立たないが)上を後ろ盾にして繋がっている関係で、それなりの権威付けみたいなものを持っているが、実際的なタマはそこまで持ってないし、別にBravoの言うことなら誰もが聞くと言うこともない。

Charlieは、そもそも成り立ちが街の外からの情報を専門に取る組織だが、プロトコルと呼ばれる自分たちの雛形(やり方)に固執するめんどくさい連中。そしてDeltaは高い情報集めのノウハウと大きな網(ネットワーク)を持つが、なにぶんと自分たちの縄張り意識が強く、組織も縦構造の階層的で横に情報を渡さない。

まったく毛色の違うこれらの組織が、協力して新たな一つの組織として、Echoを立ち上げようってことになった。どうも街の外に対抗するための策として、上の奴らがトップダウンで決めたことらしいが、現場としてはそのやり方には大方懐疑的だった。まったく、偉い奴らっていうのは上に行くほど現場ってものが見えなくなる。Echoには俺を含め、Alfa、Bravo、Charlie、Deltaのそれぞれの組織からそれぞれタマ出しすることになったが、いかんせんそんな寄せ集め組織なんかが到底うまく行くはずがない。組織の発足からほどなくして、Echoはある問題に突き当たった。

問題の本質としては結局のところ、組織の主導権をどこが握るか、という問題に尽きる。寄せ集め組織の性質上、いろんな組織の色を持ったタマが集まるのだが、どうにも自分たちのいた元の色のやり方に固まりやすいのってのは、誰の目にも見ても明らかだった。他の国へ移り住んでも、結局は考え方の近い出身の母国の連中とつるむことになるのと同じ原理だ。

このEcho自体は、街の上層部の肝入りということもあってか、当初は街の外部の情報に精通したCharlieがヘッドとなる流れだったが、そこで縄張り意識の強いDelta側との主導権争いが起こった。それはDeltaが横に情報を流さないという形ではじまり、元々あったDeltaのシマの情報は、Deltaの色のついた奴だけで独占し、決して他の連中には渡さないで上にあげるようになっていった。こちらから協力の依頼を申し出ても、まずは窓口役を通してくれ、これまでの前例がないからダメだの一点張り。Echoという新しい組織であっても、あくまでDeltaの流儀を通そうってハラだ。

Deltaを構成する個人個人は、そこまで話のわからない人間ではない。だが組織として固まると途端にダメになる。(誰かが隣国の奴らと同じだなと言っていた)CharlieとDeltaの水面下の暗闘が続く中で、Alfa側の身の上としてはやりにくいことこの上ない。いつの世でも、猿山のボスの座を巡って無益な争いってやつは起きるんだ。どのみち、このEchoなる組織体は立ち行かなることは誰の目にも見ても明らかだった。結局、街の上層部のオナニーにしか過ぎないってこった。

そんな混沌としたEchoに、先日奴はやってきた。人づてに聞いたとこによると、どうやら奴はAlfa、Bravo、Charlie、Deltaの4つの母体の出身ではないということだ。(後に、Foxtrotというところの出身だとわかるのだが、それはずっと後のことだ)

完璧なヨソ者がいきなりこのEchoで一つのシマを任されるっていうのは、俺としてはどうも腑に落ちない。一体どういう経緯でこのEchoに来たのか。俺は訝しがりながらも、奴の一挙手一投足に目が離さずにいた。もしかしたら、組織がうまく機能しないことに業を煮やした上層部が送ってきた人間かもしれない。奴には警戒すべきだ。だが、このEchoそのものをガラッと変えちまうかもしれない、奴の目を見ていると、なんだかそんな気がする。俺の胸の中は、密かにそんな期待と不安が入り混じっていた。


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