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ドイツパン修行録~E.W.J編~

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ヨーロッパ・ドイツに移り住み製パン修行、そして製パンマイスター取得を果たした8年に渡るドイツ生活をいよいよ終わりにしようと決めた男の在独9年目、最後の日々の物語。
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#眠れない夜に

*37 The ending of a wonderful journey

 自転車を漕いで緑の中を颯ける。私が通勤用に使っていた安価な物と同じ総称の元にあるとは思…

*36 暮らした町、残る足跡

 誕生日の当日に町を濡らした雨は些か心地良かった。心地良かったと言っても我が身迄濡らす用…

*35 最後の日

 先日から職場に一人の日本人が加わった。ドイツに越して来て未だ数カ月、偶然にも日本人であ…

*32 継続と有終の美

 イタリアのパンを地域別に写真付きで紹介している章に好奇心が掻き立てられ、イタリア語を読…

*31 病は気から

 病は気から、と言う言葉は屡「気の所為」というニュアンスで用いられる。私はそれに対して「…

*28 尊ばれし命、交わり、すれ違い

 私は大変に堕落しない。図法螺である。散らかった書物机をよし一思いに片付けてみても十五分…

*27 道

 一年の内で最も好きな時期は年末年始、詳しくは年越の瞬間である。精神の浄化、とは稍訝しく、そもそも可視化のされぬ現象であるからそれの有無さえ人に伝えるは難儀であるが、二〇一七年を迎える時、一人、睡眠にも催眠にも掛かっていない私の眼前、真白の壁に忽然と浮かび上がった情景は、二〇一六年の懊悩煩悶の日々がまさに浄化された様な、或いは濁らず言えば昇華させられた様な印象で、私は実際目にしたわけでもないその光景を未だに鮮明に記憶している。数多の懊悩で埋め立てられた大地の上に私が立っている

*26 地に足を

 友人との会話に花を咲かし、己の情熱に薪をくべた週末を経て幕を開けた今週、私は威勢よく仕…

*25 背筋を伸ばして

 週の始めの月曜日、最も信頼のおける友人とテレビ電話をした。御互いの近況報告をしたいとい…

*24 運ばれている

 八年前、ドイツのパン屋で働き始めた時、職場には既に一人日本人の先輩がいた。名も性別も伏…

*23 渡りに舟

 世の中には何処にでも狂しな者がいるものである。景色の良い秘境にも飯の美味い街にも治安の…

*22 パンと歴史とリンツァートルテ

 今週から出勤時間が一時間遅らされた都合で目を覚ますのもそれ成り遅らせた。先週迄は疾っく…

*20 いずれ菖蒲か杜若

 花札の五月は菖蒲である。花札と言えば童の頃に父から教わって良くやったものであるが、菖蒲…

*19 アローザル

 五月である。在り来たりの常套句に他ならないが、今年の元旦、年を明かして早々に文章を綴った時から数えて、もう五つ目の月になるのか、早いな、と思う。早いな、とは思うが、あっという間という感覚とは違う。経過した四カ月の内でも割と色々あった。反対に言えばエジプトに居たのが随分古い話の様でその実ほんの二カ月前かと思うと、この四月の経過を形容するのにあっという間という詞は矢ッ張り相応しくない。然し早い事は早い。この調子でいくと直ぐまた正月が来そうだ、という常套句もまた頭に浮かぶが、同時