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ドイツパン修行録~ベル・エポック編~

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続・習うより慣れろ編/遂に念願の製パンマイスターとなりマイスターブリーフを手に入れた男が、ドイツの小さな町のパン屋で働きながら更なる次のステップを見据え腕を磨いていく物語。
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#眠れない夜に

*30 コミュニケーション

 パンは我儘で素直である。人間もこう在るが良い。パンは機嫌や具合が直ぐ顔に出る。嫌な事を…

*29 夢から覚めた

 近頃は全く自室に居るが快適である。近頃と言ってもその傾向は一週間前辺りから強まり始めた…

*27 秋の暮れ、冬の訪れ

 南ドイツの小さな町のパン工房の内に日本のラジオが流れた。耳から入って来る言葉の懐かしい…

*26 何事もなかったかのように

 星の浮かぶ早朝、人気どころか猫気さえも無い閑静な暗闇の道を、私は猛然と駆け抜けた。寝坊…

*24 パリ冒険記

プロローグ  華の都、芸術の街と謳われるくらいであるから嘸煌びやかな街なのだろうと考えて…

*23 つよくなりたい

 アレックスという製パンマイスターと私は以前勤めていた職場で一緒であった。また彼にはエド…

*22 ウラシマタロウ

 結局土曜の晩にあった親睦会で飲んだ酒は月曜日になっても私を苦しめ続けた。大方の場合、二日酔いと言う名の通り翌日にゆっくり休んだらすっかり良くなったのだが今度ばかりはそうもいかなかった。これを先日重ねた年齢の所為にすれば大凡世間は頷いて受け入れてくれるのだろうが、生憎この時の私は親睦会で飲み過ぎたウーゾという強い酒の所為だと心固かった。日曜もまだ腹の底から上がって来たアニスの香りがどうにも恨めしかった。その上昼間には備え付けの暖房が点かないこの時期の部屋は、体温調節の利かなく

*21 カーター

 掃除に使った雑巾が濡れたまま、固く絞られるわけでもなくシンクの縁や清掃用バケツの中でべ…

*20 Ernte Dank

 オクトーバーフェストとは名ばかりで、実際九月の十七日に始まった催事は十月の四日には幕を…

*19 クロワッサン

 何時ゝゝ曜日に見習い生が余りに残業をし過ぎていたから最後の掃除をもっと急いでやらせない…

*18 フランクライヒ

 ミュンヘンから帰る家路の電車の内の退屈を凌ぐ為に、それから春先に不図思い付いた夢想上の…

*17 生を活かす

 ホロスコープもタロットカードも読めない私であるが、週の始めの月曜日の早朝、出勤の為にア…

*16 岐路

 日本では桜の象徴に見るように三月から四月にかけて年度が入れ替わるが、ドイツではそれが八…

*15 バースデイ

 今でこそパン職人と名乗る事の出来ている私であるが、ドイツに渡るより以前は全く異なる職業に就き働いていた。また休日にパンや菓子を焼く事も無ければ語学の習得に励むでも無く、ましてや海の外に広がる世界など自分とは全くの無縁であると位置付けていたから間違っても海外旅行などという無謀をしたいと思い立った事さえ毫も渺も無かった。即ちそれはドイツパン職人としての私という人間が、言葉も無く知識も無く全くの丸腰で産み落とされた赤子の如く正真正銘ドイツの地で育ったパン職人だという理屈になるわけ