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【おすすめのボカロ楽曲】 なぜならば、総ては嘘で出来ている

昔からVOCALOIDをよく聴く。大学に入ってから少し遠のいていたが、最近またハマってしまった。人間ではないVOCALOIDが設定された音階を設定された発音で歌うということでしか生み出せない世界があるのだと、私は思う。

VOCALOID

 VOCALOIDとは、メロディー(音階)と歌詞を専用のエディタに入力し、人間の声を元にした歌声を合成できるYAMAHAの商品である。初音ミクを代表として、鏡音リン・レン、IA、vFlower、AZUKIなど。
段々とその言葉のさす範疇が広がり、「ボカロ」は総じて歌声が合成された楽曲を指すようになった。

今回紹介する曲の中にも、厳密には VOCALOIDとは呼べない、CeVIO AIの人工歌唱ソフトウェア音楽的同位体 可不の曲なども含まれる。総じて、所謂ボカロの話をしているのだと甘くみて欲しい。
さらに、可不はバーチャルアーティスト 花譜の声を元に作られたライブラリであり、よりその存在が不安定・不透明だ。そこがいい。

以降、オススメの曲を紹介する。ぜひ、聴きながら読んでほしい。

勝負の朝: 走れ/KEI feat.GUMI

頑張るぞ!という時にずっと聞いてきた。受験の時も、初めての公演の時も。

PVもシンプルで、昨今のネット投稿楽曲の雰囲気とは少し異なるこちらは2012年に投稿された曲だ。「fixed race」とだけ書かれた画面のように、やや理不尽な人生というレースについて歌われている。

声援も檄も悪口も聞こえない
誰も僕を見てやしない

思いの外、世界は自分に無関心で悪口さえないほど独りで走っている。頑張ってもサボっても、特に誰かに影響を与えることはできなくて完全に自分との戦いだ。

上がった息と擦り減った靴に
何度も足を止めたくもなるけど
孤独の夜と永訣の朝を
繋いできたのは僕だって誇れるように

誰かのためとか、1番になるからとか、それ以外の私のために私は頑張りたいんだと思い出させて、奮い立たせてくれる。
テンポや曲調にも疾走感があり、勝負の朝におすすめしたい。

幸福のうさぎ: ヲズワルド/煮ル果実 feat.vFlower

一風変わって、コチラは世界観が好きな曲。

ディズニーランドで最近流行った、ミッキーの前のキャラクター・WOZWALDがモデルとされている。PVも遊園地が舞台になっていて、ヲズワルドとは何なのか、また多くの断片的な映像はどんな意味なのか、とさまざまな考察が飛び交う。

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オズワルドは著作権などの問題で、どんどん改変され使われなくなり忘れられた、「しあわせなウサギ」のキャラクターである。大人の事情で彼の命はコロコロと変わってしまったわけだ。ウォルト・ディズニーの死後各権利がディズニーに戻り、オズワルドは復活するのだが、自分の後にできたミッキーの方が人気でオズワルドはその派生、のような扱いを受けることになる。

曰く後に名乗りでもすりゃあもう
総て贋作なんでしょう

PVでは、青年が誰かに誘われるように遊園地の闇に呑み込まれていく。金や欲が蔓延り、周りに流されるように生きたり、期待して失望したりする大人の現代社会に馴染めない様子が、合成された歌声で、独特のリズムと韻に乗せられていく。

永遠に死にたいから死ねないね 

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林檎を受け取る青年は、それを口に運ぶ。アダムとイブが食べてしまった禁断の果実は、それによって知恵が付き、原罪を背負い、楽園から追放される。彼は、何処から追放されるのか。(遊園地が舞台ということで「白雪姫」の毒林檎だという説もある。皆様も色々考察して楽しんで欲しい。)

哀、晒して   愛、腐らせて
新成人に合図を

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この曲で唯一の明るい言葉で曲は終わる。青年が齧っていた林檎が拳銃に変わり、彼は口に銃口を突きつけている。新成人への合図は、スターターピストル擬きの銃声になる。林檎を受け取ったのはまさしく夢の国で、現実では自死という結末が待つ。オズワルドが「しあわせなウサギ」に戻れることはない
信仰(に近い人気や大衆心理)と思想、そして幸福を甘美な毒として描いている。文学や映画が好きな方におすすめで、とにかく一度じっくりと動画を見てほしい。

嫉妬と羨望: ザネリ/てにをは feat.vFlower

ザネリ、というタイトルからお分かりの通り『銀河鉄道の夜』がモチーフの曲だ。
ザネリはお祭りの夜、ジョバンニを揶揄ういじめっ子として登場する。そして、ジョバンニは一人で星空がよく見える丘へ向かい、銀河鉄道に乗り込むことになる。丘で1人目覚めたジョバンニが町へ向かうと、カムパネルラは川に落ちたザネリを救った後、溺れて行方不明になったと聞かされる。
ジョバンニとカンパネルラの関係が多く取り上げられる中で、この曲はザネリにフォーカスが合っている。(米津玄師「カムパネルラ」もザネリ視点の自罰の歌らしい。)

襟を尖らせて 石塊投げて 人を嘲笑ったボクが
傷つけられたような顔で主人公ぶっている

『銀河鉄道の夜』でジョバンニに対し繰り返し揶揄う態度を取る、あのザネリであることは明らかだ。

『銀河鉄道の夜』第四場

いきなりひるまのザネリが、新らしいえりの尖ったシャツを着て電燈の向う側の暗い小路から出て来て、ひらっとジョバンニとすれちがいました。
「ザネリ、烏瓜ながしに行くの。」ジョバンニがまだそう云ってしまわないうちに、「ジョバンニ、お父さんから、らっこの上着が来るよ。」その子が投げつけるようにうしろから叫びました。
ジョバンニは、ばっと胸がつめたくなり、そこら中きぃんと鳴るように思いました。
「何だい。ザネリ。」とジョバンニは高く叫び返しましたがもうザネリは向うのひばの植った家の中へはいっていました。
「ザネリはどうしてぼくがなんにもしないのにあんなことを云うのだろう。走るときはまるで鼠のようなくせに。ぼくがなんにもしないのにあんなことを云うのはザネリがばかだからだ。」

ジョバンニがカムパネルラと銀河鉄道で出会った時、カムパネルラは「ザネリはお父さんが迎えに来た」と言う。結局それは、川に溺れたザネリは父親に家に連れ帰られ、カムパネルラは見つからないことを指す。

泣いた愛しい盆暗 ずぶ濡れのまま
今日もきっと誰かを嘲笑う
明日もきっと意地悪だろう

ザネリはエピローグが終わった時、ずぶ濡れで泣いている
カムパネルラとザネリは同じグループに所属して、ジョバンニは爪弾きにされていた。そんな中でも、カムパネルラはジョバンニと仲良く対等に話し、それがザネリのいじめの原因ではないかと言われる。つまり、カムパネルラと対等に話せることへの嫉妬や羨望である。

ねぇザネリ 仲良くしよう
今日も乗り遅れた者同士

「乗り遅れた」とはつまり、生き延びて銀河鉄道に乗らなかったということだろう。しかし、ジョバンニは死んではいないのに、星降る丘の夢の中でカムパネルラと銀河鉄道の夜を過ごした。彼/彼女(ザネリは性別不詳)は何処まで、ジョバンニに勝てないのだろう

「古い満月をピカピカに磨いたのは君だろ?」

この歌い出しでグッと心を惹かれた。どうやって生きてきたら、こんな言葉が浮かんでくるのだろう。羨ましい限りだ。

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何処からでも見えるあの美しい月を視界に入れるたび、ザネリはこれから一生何を考えるのだろう。PVでもザネリが指先で弄ぶ月が、目玉のような画面構成になり、ぎょろぎょろとコチラを見ている。

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PV後半でザネリは、ジョバンニ(と思われる子供)が持つ月よりも自分のものの方が輝いていることを確認して、ニヤリと笑う

可不との邂逅: ハロウ/Nekono Tokiwa feat.音楽的同位体 可不

あたし人間的な存在です。
だけど人間じゃない存在です。
まるで宇宙人的な存在です。
何者にも成れない存在です。

冒頭から、歌い手が合成音声であること、つまり架空の歌い手による歌声であるというボカロ曲の特徴が存分に活かされる。

キミの存在はほら明確です。
あたしの存在は不明確です。
まるで幽霊的な存在です。
何処へも行けやしない存在です。

少しネガティヴにその存在の曖昧さや非実在性を並べるこの歌詞は、可不が歌うからこそその周辺に情緒を持つ。幽霊などの霊的なものが持つイメージ(面影)と架空の存在、そして想像力と創造について、実在論や認識論の立場から少し考えたことがあり、それを踏まえてこの歌詞を聞くと、とても面白い。
この曲では「ハロー」と「ハロウ」が登場する。おそらく、「Hello:こんにちは」「Hollow:空洞」だろう。

いま届いていますか?
存在の証明なんてできないくせに

他者への投げかけを通じて、自己存在の不安に行きつく。ボカロならではの歌詞とテーマである。可不の楽曲の中で、最も彼女と出逢ったと感じられた楽曲だ。

架空と偽物: フォニイ/ツミキ feat.音楽的同位体 可不

Phony、その名の通り偽物の歌だ。
冒頭でも述べたが、可不はバーチャルアーティスト花譜の声をもとに作られた合成音声である。

この世で造花より縞麗な花は無いわ
何故ならば総ては嘘で出来ている

可不は花譜の造花であり、フォニイ(偽物)である。

言の葉は疾うに枯れきって
事の実があたしに熟れている
鏡に映り嘘を描いて 自らを見失なった絵画

言葉という形ないものが消え去った時に残る実在は、可不にとっては、イラストレーターがキャラクターデザインしたイラスト(絵画)だ。

簡単なことも解らないわ あたしって何だっけ?

そこから、自己存在の不確かさを叫ぶ。これもまた、架空の歌い手が歌ってこその味があると私は思う。
造花には造花だけが知っている世界があるらしい。全てが嘘でできている世界の中で、嘘でないのはなんだろう?

深呼吸: 孤独な勇者の応援歌/傘村トータ feat.vFlower

最後に、わたしがもう頑張れないかもしれない…となった時に聞く曲を紹介する。
作者の傘村トータさんは概要欄で、今少し弱っていてフル尺で作れなかった、と謝罪している。実際に2分もない短い曲だが、だからこそ、深呼吸のように少し、息苦しさから解放してくれる。

大丈夫ではないそれはもう、本当に
「今回ばかりは駄目だ」と思う
大切な戦いは一人でいるとき訪れる
たった一人の僕はボロボロの勇者だ

「みんながついてるよ」「一人じゃないよ」という歌が多い。でも、一人でどうしても持ち堪えなくてはいけない時、誰かがいたところでどうしようもない時、自分の足でのぼらなくてはいけない時もあるだろう。

この世界を満たす 混沌や悪意に
折られてやるほど 僕は優しくない
負けるな 僕よ
お前の強さを 僕だけは信じている

自分のために自分で立ち上がりたい人は、ぜひ2分間少し目を閉じて、Flowerの真っ直ぐな声に耳を傾けて休憩してほしい。


公演/劇団情報

劇団いちいち
Twitter:https://twitter.com/gekidan_11
Mail:theater111999@gmail.com
※お問い合わせやご依頼は各SNSのDMまたはメールまでお願い致します。

劇団いちいち 春ごもり公演
『吐息のおもかげ』
脚本・演出:豊田莉子
【日時】2022年
    3月5日(土)14:00 / 18:00
       6日(日)12:00
    ※開場は開演の30分前です。
    ※上演時間は80分を予定しております。
【場所】東山青少年活動センター 創造活動室
【料金】※当日券は各+300円です。
    学生前売:1000円(要証明)
    一般前売:1500円
【予約】カルテットオンライン

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編集後記

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最近、Flowerにハマっているのでだらけになってしまいました。今回取り上げた楽曲は人気曲なので、今度、自分だけで知っていたいボカロ特集もしたいです。

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