【迫力勝ち③】

「ネエちゃん❗️この脚あしをなんとかしてもらえんかのぉ❗️」

通勤電車内で、窓に向かって吊革を握って立っていた男が、眼下で脚あしを組んで座っている女の子のその脚を蹴った後にそう言って凄んだ。

朝のラッシュで混んでいるにも拘わらず、立っている他の乗客への迷惑も考えずに脚を組んでいるその女の子を、彼は許せなかったのだ。

蹴られた挙げ句、坊主頭の〈ヤ●ザ〉みたいな男に上から睨み付けられて凄まれたものだから、女の子は忽ちビビってしまって、直ぐに組んだ脚を下ろして俯いてしまった。

同じ車両に乗っていた僕は、少し離れたところから、その一部始終を見ていたのである。

暴力を振るったんだから、下手をすれば訴えられても仕方がなかったのだが、ヤツの迫力勝ちだった。